かたたん、かたたん、と一定の緩いリズムを刻む真っ赤な電車。
窓の外の、腕を伸ばす電線。背を競い合う、ガラスのビル。
窓から光が差し込んで、私の隣りが赤くなる。





知らず知らずの内に、頬が緩んでしまった。
ああ、今すぐ膝の上にあるケーキを、閻魔と一緒に食べたい!






そう思いながら、白い箱をゆっくりと撫でた。

(うわ、ありがとー!)
子供みたいな笑みが、私の脳内に描かれた。
いちもくさん











(あ、またいた)

おかっぱみたいな髪を揺らして、本を手に取っている青年。
彼は最近、よくこの図書館にきている。

私は、あんまりこの図書館を利用しないんだけど、彼がいるから来るようになった。

この間、…友人?(何か青いジャージ着てた)みたいな人に
「あほ妹子ー」とか言われていたから、妹子、ていう名前なんだろう。

いもこ、いもこ。女の子みたいだけど、彼に似合うと思うのは何故だろう。





でもまぁ、彼がどんな名前でも、私は一目惚れしていたでしょうけどね!

一人にやけながら、そうごちた。
素敵な、あの人。











「太子ぃーまだですかー」
「も、もうちょっと!」





太子が車に(というか道に)悪戦苦闘しながらそう言った。
海岸は見えるのに、海岸に辿り着けないって何だこれ。





でも唇を尖らす太子が何か可愛いから、私は頬を緩めた。

窓を開けて、潮風を吸い込む(ああ、いい気持ち!)。

「ちょ、何しとんじゃー!寒いだろーが!」
「太子が薄着なのが悪いんですよー。あー早く着かないかなー」
「うっ!」

ふふ、と笑って、額を叩く髪を押さえた。
青い車











とことこと歩きながら空を見たら、
いつの間にやら雨が止んでいた。

「ふー」

高校にも無事に入れたし。
それでも寂しいのは、松尾先生がいないからかな。

メランコリーになりつつ、傘を降ろして閉じた。
傘はさっぱり渇いて、早く雨よ降りなさいと言わんばかりだ。

「あれ?」
「へ?」

曲がり角、顔を合わせた人は、あの、松尾先生で(ええー!?)。

するとぽつ、と頬に小さな衝撃。
すぐに、アスファルトにまだらが出来て、松尾先生はわたわたと慌てだした。

「あの、」
「わわっ?なーに?」

挨拶も無いけど「とりあえず、傘、入りませんか」
はじまりの季節