かたたん、かたたん、と一定の緩いリズムを刻む真っ赤な電車。
窓の外の、腕を伸ばす電線。背を競い合う、ガラスのビル。
窓から光が差し込んで、私の隣りが赤くなる。
知らず知らずの内に、頬が緩んでしまった。
ああ、今すぐ膝の上にあるケーキを、閻魔と一緒に食べたい!
そう思いながら、白い箱をゆっくりと撫でた。
(うわ、ありがとー!)
子供みたいな笑みが、私の脳内に描かれた。
いちもくさん
□
(あ、またいた)
おかっぱみたいな髪を揺らして、本を手に取っている青年。
彼は最近、よくこの図書館にきている。
私は、あんまりこの図書館を利用しないんだけど、彼がいるから来るようになった。
この間、…友人?(何か青いジャージ着てた)みたいな人に
「あほ妹子ー」とか言われていたから、妹子、ていう名前なんだろう。
いもこ、いもこ。女の子みたいだけど、彼に似合うと思うのは何故だろう。
でもまぁ、彼がどんな名前でも、私は一目惚れしていたでしょうけどね!
一人にやけながら、そうごちた。
素敵な、あの人。
□
「太子ぃーまだですかー」
「も、もうちょっと!」
太子が車に(というか道に)悪戦苦闘しながらそう言った。
海岸は見えるのに、海岸に辿り着けないって何だこれ。
でも唇を尖らす太子が何か可愛いから、私は頬を緩めた。
窓を開けて、潮風を吸い込む(ああ、いい気持ち!)。
「ちょ、何しとんじゃー!寒いだろーが!」
「太子が薄着なのが悪いんですよー。あー早く着かないかなー」
「うっ!」
ふふ、と笑って、額を叩く髪を押さえた。
青い車
□
とことこと歩きながら空を見たら、
いつの間にやら雨が止んでいた。
「ふー」
高校にも無事に入れたし。
それでも寂しいのは、松尾先生がいないからかな。
メランコリーになりつつ、傘を降ろして閉じた。
傘はさっぱり渇いて、早く雨よ降りなさいと言わんばかりだ。
「あれ?」
「へ?」
曲がり角、顔を合わせた人は、あの、松尾先生で(ええー!?)。
するとぽつ、と頬に小さな衝撃。
すぐに、アスファルトにまだらが出来て、松尾先生はわたわたと慌てだした。
「あの、」
「わわっ?なーに?」
挨拶も無いけど「とりあえず、傘、入りませんか」
はじまりの季節