「淡々とした」。そう、文字通りの日々。
感覚が麻痺して、深い海底に沈むような。





10年





もう長い付き合いになる。
恋人を通り越して、きっと若夫婦だ。





私の手の体温を、私と分け合う恭弥は、
前をまっすぐ見て、歩いている。

何で好きになったのか?
……分かっているけど、今は麻痺しているから、
考えたくない。

きゅう、と力のこめられた手に、私は目を細めた。

何故好きになったのかを模索するようになったのだろう?
……でも、嫌いじゃない。





この、恭弥の隣は、嫌いじゃない。





……そう、思ったからなのかな、
私が、恭弥とずっといっしょにいるのは。





……無償に、恭弥に、甘えたくなって
手をしっかり握った。





***





褪せもしないけど、色づきもしない。……最近は。
ぼんやりとした、ピントの合わない生活。





10年





もう10年以上だ、といるのは。
きりのいい数字は、この間通り過ぎた気がする。





目線を下げればすぐ見えるは、
のろのろと、彼女独自のリズムで歩いている。

何故といるのだろう?
頭では分かっているけど、きっと、もとめているのはそんな答えじゃない。
もっと、抽象的な。

何が何だかわからないままの手を握りなおした。

手は温かい。心地よい。気持ちがいいのに、
なぜ「そんな」ことを考えるのだろう?





……「これ」が好きだから、きっと僕らは一緒にいるんだ。





例え、出会った頃のきらめきがゆっくりと落ちていても。
色づいた絵画を鑑賞するように、僕らは歩む。





いつまでも見入りたくなるような、心地よい絵。
彼女は手を握り返してくれた。