校門で、三人を待つ。
校門を潜り抜けていく生徒は、楽しく談笑をしながら粒になる。
「」
くいくい、と袖を引かれたので後ろを振り向いた。少し驚いたのは内緒だ。
そこには、俺より数センチ高い千種がいた。
ただ猫背だから、俺と目線は同じくらい。
口を白いマフラーに埋めて、寒そうだ。
千種の肩越しには、骸さんも犬も見えない。
首を傾げる。千種に聞いてみるか。
「どしたの千種」
「…帰ろう」
くぐもった声が、俺に誘いをかける。
いろいろな疑問をすっ飛ばし、誘いがやってきた。
「骸さん達は?」
「…いいから」
ふい、とそっぽを向いた千種。
…えーと、これはアレかな、二人で帰りたいとか。
そういうのかな。
…頬が色づいているから、良い様に解釈しよ。
…少し、いや、凄く嬉しくなって、千種の頭を撫でた。
「…了解」
○
川沿いの、人が少ない道。電線が、空間を切り取る道。
スチールみたいに冷えた青に、白い息を吐き出した。
千種がそれを見て、少ししてから俺の手を握る。
俺は少し驚いて、手と千種を交互に見た。
千種は少しだけ不快そうに、こちらを目だけで見た。
頬が染まっているから、微笑ましい。
「…何、」
「いや、どういう心変わりかなぁ、と思って」
「…」
「あ、ごめん!ごめんってば!」
無言で手を解かれたから、慌てて謝る。
あたふたしながら俺は、千種の骨張った手を握り直した。
冷たい爪に指が触れたけど、気にせず手を絡める。
千種は照れたのか、口をマフラーに埋めて俯いた。
そして、一歩前を歩いていく。
「…温かいな」
「…あっそ」
「…千種は、温かくない?」
沈黙と、白い息が流れていく。
どこかの犬が鳴いている。
どこかのクラクションが、鳴っている。
「…まあまあ」
千種は小さく呟いた。
それこそ、星みたいな小ささで。
けど、俺はそれで満足した。
何かを噛み締めるように、千種の手をぎゅう、と握った。
今にも宙を踏みそうな足を、必死に引きとめた。
でも、むずむずする胸を押さえきれなくて、俺は立ち止まる。
先を行っていた千種は、くんっ、と引っ張られ、顔を上げてこちらを見た。
呆れたような目だ。
案の定、母親のような口調で俺を諭す。
「…行くよ」
「待って」
俺は少しだけ踏み出して、ゆっくりとスライトキスをおくってみた。
でぃーぷの反対ですから、すぐに唇を離して。
互いに乾燥した唇。感想は?なんて洒落を言う前に千種をじっと見つめる。
千種は目を見開いた状態から、
少しむっとしてまたマフラーに口を埋めてしまう。
それでも、反抗的に、目はこちらの目を見つめていて。
ちくさのめのなかにおれがいるー。
その事実が嬉しいから、俺は千種の手を取った。
「さて、帰るのを再開しよう」
「…馬鹿じゃないの」
気取った誘いは言葉だけで一蹴された。
けれどもしっかりと手を繋いで、歩みだす。
今度はしっかり、俺の隣にいる千種。
俺は満たされた胸から息を吐き出して、冬の空に贈った。
ウインターエッジ
(とある世界の端っこで)