「裕太!」





びくり、と肩を震わせてから、
その声が誰のものか気付くまでに時間はかからなかった。

「……
「おはようさん」
「おはよ」

いつもツインテールにしている髪も下ろして、男物の群青色の着物姿。
にこにこというか、気の抜ける笑顔を浮かべているのは、この七尾城の城主、
だ。

女で武将だし(男女差別か?)、俺より格段に強いしいい奴だし頭いいし。
まぁ……笑ってりゃある程度かわいいし。行動とか言動はアレだけど。





……俺はとある事情から、この城で世話になっている。





事情は……まぁ、後々。

「朝餉食べに行くんだよな」
「ああ」
「じゃ、一緒にいこ」

一歩手前でにかっと笑ったに朝日が射す。
輪郭が、ぼんやりとした。

いつのまにか握られていた手が、脈打つ。
顔がみるみる熱くなってしまった。

はそれに気付くと、俺の顔を指差して笑った。

「んな照れなくてもいいじゃん」
「うっせ」





そういう事じゃないんだよ馬鹿。





魚たち

「ゆうちゃんいけないんだ、さんと一緒に歩いてきた」
「俺の存在否定か。てかゆうちゃん言うなよ」
「いやぁ、私って愛されてるねぇ!」

はっはっは、とわざとらしく笑うを白い目で見る。
そして、目の前の菜の花色の着物の女中。名前は京だ。

「京、おはよ」
「おはようさん!」
「ん」

京の頭を撫でるに、うれしそうに目を細める京。
は人の頭を撫でるのが好きらしい。
俺も一度なでられた事がある。

完全に取り残された気分になってしまったので、先に朝餉を食べに行く事にした。


*


京は孤児だ。
捨て子だったのを、まだ小さかったが手を引いて城につれて帰ったらしい。
あの時の、薄紅色の着物と
食べたおじやは忘れられない、と京はうれしそうに話していた。

はそうやって毎度、誰かを拾ってきたりする。

情けか何かは知らない、けれどもは対等に接する。
何も知らないようで、何でも知っている。

不思議な奴だ。
そしてその不思議な奴に拾われた一人がこの俺でもある。

「裕太」
「ぶふぉっ」

……参った、口から山菜を噴き出してしまった。
後ろを向いて、少し上を見上げれば、
天井からびろーんと垂れ下がっている春斗。

……こいつ、人間か…?……人間か。

こいつ人間じゃなかったらはなんなんだ、妖怪か。

……春斗はこの時代にしては珍しく天然の茶色の髪をしている。
それがゆらゆらと揺れているのを、俺は数秒見ていた。

……とりあえずむかついたので、
額にデコピンをお見舞いしておいた。

「……痛い」
「嘘だろ」

顔を全く変えずに赤くなった額をさする春斗に即答でつっこんだ。
春斗は数秒黙ると、天井裏に戻っていった。

あいつも、孤児だ。拾ってきたのはつい最近らしい。

春斗は、吸収が早い。

何がいいたいかというと、今の忍っぽい行動は、
全部から教えてもらったものだ。
はなんでもこなすのだが、まさかそこまで、と思った俺も、
春斗を見たら納得せざるを得なかった。あいつスゲーもん。
というか、ここでは常識というものは蟻に近い。非常識こそが常識だ。

別には春斗を忍にする気なんてさらさら無いのだが、
春斗は少しやる気らしい。

60%のやる気、後は好奇心と、への下心。

春斗も中々手ごわい気がする。いろんな意味で。

そんなことを思っていたら、障子が開いてあの二人が入ってきた。
京が俺を指さす。指さすんじゃねぇ。

「あー、さん、ゆうちゃんもう食べてますよ」
「ええ?マジで?」





……お前らの所為だろうが。





080725