ほら貝の音が、遠く響いて耳を揺さぶる。
「幸助、準備いい?」
「大丈夫ですよ」
髪を短く切った、より年上の青年が頷いた。
も少し柔らかく笑って頷く。
の顔には「信頼している」という感情が表れていた。
ふわ、と二つ結びの髪は揺れた。
後ろに、兵も馬も無い。
「負傷者も特に出ずに手っ取り早い!
ってことで、能登国、行かせて頂きたく候!」
群れ
地を蹴ったは、すいすいと水の中を泳ぐ金魚のようだった。
向かってくる赤い、紅い、鯉のような兵たち。
は薙ぐように風を切っていく。
致命傷は残さずに、足を狙っていく。
矢は、刺さらなければ無視した。
は大きく、まだ青い宙に向かって跳んだ。
「今感じてる命、捨てるなんて勿体無いこたぁできないっつーの!」
ぼふん、と爆発するように発生した白煙が、風に流され消えていく。
赤い兵たちは目を見開く。
――そこには、数十人の能面をつけたがいた。
「なっ……忍!?」
「大体二人でつっこんでくるなど無謀だと……!!」
「違うよ」
能面が喋りだす。
くぐもった声だ。それでも、凛とした声は、全ての者の目をひきつける。
紡ぐように、別の能面が喋りだした。
それは奇妙で、ちぐはぐで、恐ろしい。
「確かに其処に居るのですよ」
「貴方方の目の前」
「私は能登国を治める者」
「変幻自在、
推参!」
ふわ、と無数の月色の面が空に飛んだ。
080728