「報告しま……うぐっ!」

武田信玄の前に現われた忍は、後ろから首を掴まれた。
クナイが、その忍の首に、ぴたりとあたる。

ひやりとした感触に、忍の背中にぞわりと鳥肌が立った。

目を見開く信玄を前に、忍は、掠れ震える声を出した。

「な、い……を」

何を、と言おうとしたが、舌が回らなかった。
冷や汗が、つるりとすべる。





「駄目でしょ、こんなところに忍び込んできちゃあ」

低い声が、ぞわりと耳をくすぐった。

擬態魚










しゅ、と引いたクナイは、鮮やかにその忍の首を裂いていった。
しかし、










「「…!?」」

忍の首からは、紅蓮の水は吹き出ず、忍はさらさらと砂のようになって消えた。





――その代わり、今度はどこからか女の声が聞こえる。










「……あーあ、さっちゃんたら、もう」










忍、猿飛佐助はふと頭に重みを感じて、ぴたりと止まった。
信玄が、今気付いたとでも言うように目を見開いて叫ぶ。

――いや、今気がついたのだ。





「……佐助ぇ!頭に女子がのっておるぞ!?」
「……はぁあああ!?」





佐助の頭には、能登国の武将、が、悠々とあぐらをかいて座っていた。

佐助は頭にをのせているため、迂闊に動けない。
もし少しでも間違ったら、逆に自分の首の骨が折れる。

「って、重っ!意識したら重くなってきた……っ!」
「よっ、と」

苦しげに声を漏らす佐助の頭から、はぴょん、と飛び降りた。
それからしっかりと地に足をつけると、叫んだ。





「能登国、私は貴殿――武田信玄公と話をさせていただきたく候!!」





びり、と少し声が響いた。
先ほどの、軽い声とは違う、貫いた高く低い声。

凛とした、刀のような背中は、小さいはずのを大きく見せた。

「……ほう、話とは?」

はすっと息を吸った。
肩からは力が抜けて、緩やかに声があふれ出た。










「貴方は、何を望んでいるのですか。

この世界に、

天下統一に、

そして、皆に」










ただの少女だった。

先ほどの威勢が、ぐにゃぐにゃと柔らかくなって、鋭く脆く、細くなったようだった。

眉を顰めて、
泣きそうな顔で、
必死な様子で、

それでも凛とした顔で、

は、問い掛けたのだった。





080801