変わった少女だった。
襤褸の魚
いや、少女っていうか、武将だけど。
……どっかで……見たこと、あるんだよなぁ。
『さっちゃん』
あの呼び方。
そう頭の隅っこで考えながら、目の前の光景をじっと見つめる。
彼女、泣きそう。いや、泣かないけど、怒ってるような、苦しんでるような。
まるで彼女が、「心」そのものを表してるみたいだ。
何を望むか。
彼女はそう大将に問い掛けた。
「……わしは、この乱世を終わらせたいと思っておる」
その言葉に、彼女のくしゃりと歪んだ顔が元に戻った。
そして、ゆっくりと、地面に膝をつく。
二つに結われた髪が、ふわりと飛んだ。
「貴方の言葉に、嘘偽りは無いと見える。
――下らせていただきたい」
はにかむような、噛み締めるような、声だった。
驚いて、声が出てしまった。
「何で…」
彼女は俺のほうを向くと、すっくと立ちあがってふにゃりと笑った。
……あ、
「私は元々、戦なんてするつもり無いし。
痛いの厭、苦しいの厭。
本当は話をしようと思っていたんだけど、ちょっと忙しくってさ。
――信用できる人だったら、私はいくらだって付いていく」
緩やかな声に、あの声に、呆然としている俺を置いて、
彼女は大将に目を向けた。
「……駄目、でしょうか?」
大将が顎に手を当てる。
「…同盟、というのはどうじゃ?」
「それはよいお考えで。……よろしいのですか?」
「うむ」
ゆっくりと彼女が差し出した手は、小さい筈なのに大きくみえた。
*
陽も、少し落ちた。
「っつーわけで、只今!私の可愛い可愛い嫁たーち!」
「きゃー!さん、おかえりなさーい!」
「おかえりなさい……」
「おー、ちゃんと戻ってきたんだな」
「あたりまえでしょうよ!」
…えーと、何この光景。
一国の武将に女中やら忍やらくっついてんだけど。
「破廉恥いいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「うわっ!」
旦那の声が後ろで響いた。煩い!
…ていうか、旦那はあの場にいなかったんだよねー今回。
後から聞いてた話だと、足止めされてたらしいけど。
でも戦う相手が二人しか居なかったとはね。
「煩いですよ、幸村殿」
「む、すまぬ幸助殿……」
どうやら戦った相手と仲良くなってしまったようで。
いやーもう何がなんだか。
こんなに気の抜けた戦は初めてじゃない?
「何ぼうっとしてんの、さっちゃん」
「……ん?」
背後から声が聞こえて、さっと後ろを向くと。
「……わぁ」
彼女がいた。驚いた、不覚にも。
……いや。彼女、じゃなくて。
「……師匠」
「あ、意外に覚えてた」
うん、あの笑みを見ればね。
……ま、ちょっと見ほれたっていうのもあるんだけどさ。
080817