少し気分が悪くなって、厠に行ったその帰り。





ひょろひょろと風に揺れる、綺麗な朽葉色を見た。





「隣、いいかな?」
「!」

ぱっ、と後ろを向いた顔はまだ若い。
まぁ、私も若いって言えば若いのかな?

相手は私に驚いたようで、口をぱくぱくさせてから私の名前を紡ぐ。

「あ、う、、殿?」
「うん。こんばんは」





私の名前は。貴方の名前は?

子供の遊びみたいに、そう聞く。
知っているけど、礼儀として一応。

彼は姿勢を正して正座する。





「あ…某、真田源二郎幸村、と申す」
「名前長いな、幸村でいい?」

そう問うと、緊張しているのか、幸村はこくこくと頷いた。
うん。

自分で納得しながら、
まだ正座している、幸村の隣に座る。





「幸村は、何してたの」
「酔いをさまそうと思いまして…」

尻すぼみになりながら、俯く幸村。
じゃあ、私と同類かな。

頷いて、話を繋ぐ。

「私も。呑みすぎちゃって、気持ち悪くなった」
「!だ、大丈夫で…?」
「うん」

…その言葉使い、つたなくて微笑ましいけど。
やめてほしいなぁ。

そう思って口に出してみる。

「幸村、普通に喋ってくれれば良いよ。ほらさっ…じゃない、佐助と話すくらいで」
「!、しかし…」
「いいって」
「…なら、」

そう呟いて、幸村はこっくりと頷いた。
戦場での、あの猛々しい姿はすっかり無くて、私は笑ってしまった。
歳相応であろう柔らかな青年。





首を少しかしげながら、幸村は私に問い掛けた。





「…先ほどから気になっていたのだが、その…
殿は、佐助と仲が良いので御座るか?」
「うん。幼馴染」
「なんと!」

…新鮮な反応。純粋な瞳。
この人なら、幸村ならきっと大丈夫だと思った。





月を見上げ、ゆっくりと呟く。





「…佐助は幸村の忍でしょう?」
「そうでござる」

すぐきた返事に、私は小さく笑った。





「アイツ結構いい奴だから…乱世が終わっても、まぁ、大事にしてやって」
「…承知した」





それから会話を続けて。
白けた夜は、ゆっくりとふけた。





太陽と魚

090214