目の前で微笑む少女が、一国を治める武将。

その容姿は特に突出した部分が無いものの、
凛と構える姿は不思議と甲斐の虎と重なった。

水面を揺らすもの





「上杉殿……此度の同盟、感謝します」





少女、はゆっくりと頭を下げる。
凛としているが、その様子は歳相応の柔らかさも兼ね備えている。

ゆっくりと、口が弧を描く。





「いいえ……こちらこそ、かんしゃします。
のとのふううんじ」

顔を上げたは、少しだけ眉を下げていた。

「……私は、それほど大したものではないのですが」
「けんそんはいいのですよ」





彼女は少しだけ目線を彷徨わせてから、「光栄です」と呟いた。





それから、沈黙が少しだけ続く。
口を開いたのは、彼女だった。

「……上杉殿とは、一度言葉を交わしてみたかった。
あの甲斐の虎が認める好敵手とは、一体どのような人物なのだろう……と」

彼女の言葉が、空気に溶け行く。

「どうでしたか?」
「そちらの忍の方の反応だけで十分です」

私の横には、かすががひかえている。
横を見れば、彼女はに噛み付くような視線を送っていた。

私の視線に気が付き、かすがはあたふたと慌てだす。
反応が可愛らしいので、つい笑いそうになってしまった。





目線をに戻すと、彼女はゆるやかに笑っていた。
視線に気が付いて、「申し訳ありません、」と少し頭を下げる。





「城に、似たような者がいるもので」





それは、幸せを噛み締める声。
一種の自慢でもあるのだろう。

自分も同じ事をしていそうだ、と思いつつ、言葉を口にする。
その凛とした姿は、溢れ出る泉のようだ。





「いえ……あなたも、”じゅうぶん”ですね」
「……」

彼女はきょとんとしてから、嬉しそうに、少しだけ頬を染めた。





090921