「ツッツナ君、いっしょに、ご飯、食べ、よう?」

小さくて可愛らしい小動物が、俺の教室にやってきた。

*****

屋上は冬なだけあって、冷たい風が吹く。
けれども、この日はめずらしく少しぽかぽかとしていた。

「ここでいいよね?」
「うっうん」

彼女― ―は色素の薄い髪を揺らして、
おどおどしながら、其処に座り込む。

は俺の幼馴染だ。
ずっと昔からの。

仲がいいのになんでお前ら付き合ってね―の、とよく言われるが、
それは多分そこから踏み出せないせいだと思う。

背が小さく小柄な彼女はその行動が似合う。
まるで小動物だ。

「い、ただきます」
「頂きます」

おどおどしているが欠かさないのは、挨拶。
昔から母親に「絶対挨拶はしなきゃいけない」といわれていたらしい。

「ツナ、君今日は、購買なんだね」
「うん、は弁当?」
「うん、作ってきたから」
「そっか」

は料理が上手い。
ずっと前食べさせてもらった事があるけど、美味しかったから。

が料理しているときはとても可愛い。
ほんわりとはにかんでいて、機嫌がいいと、小さく鼻歌を歌っている。

冷たい風が少し吹いて、の弁当を包んでいた桜色の巾着が揺れる。
は桜色が好き。そして、桜も好きだ。

俺もには桜が似合うと思う。
というか、淡くて、儚い色の小さな花、というのはらしい。

「ツナ君、これあげようか」
「ん?」
「ハンバーグ」

4つくらいに分けたハンバーグを巾着と同じ桜色の箸でつまんで、
目の前に近づける。
は少し照れたように笑っている。

ヤバい。
嬉しい。

貰えるとかどうとかじゃなくて、
俺のためにくれるとか
というかが口に入れてくれるとか
の照れて笑う顔が見れたとか





ラッキー。





「貰う」
「ん、じゃあ、はい、あー…」

口にしっかりした塊が入る。

うん、やっぱり美味しい。
もぐもぐ、といつまでも噛んでいるとが少しくすくすと笑う。
…やっぱり可愛い(ずっとそうやって言ってるけど、
それくらい可愛いんだは)。

「…美味しい」
「あ、ほ、んとう?」
「うん」

お返し、とメロンパンをちぎって、の口に当てる。

「む」
「あげる」

すこし口からパンを遠ざけると、は口を開ける。
そこにぽん、とパンを入れてやる。

むぐむぐと口を動かす様子はリスのようだ。

「…美味しい」
「そう?」
「う、ん」

まぁ売ってるのなんだけどね。
その言葉は紙パックのお茶と一緒に流し込んだ。

「ごち、そうさま」
「ご馳走様」

お茶を飲み終えて、ずこ、と音がしたとき、は食べ終わったようで、
手を合わせてそう言った後、弁当箱を片付ける(弁当箱小さいな)。

俺が立ち上がると、も慌てて巾着を掴んで立ち上がる。

「別に、置いてかないよ」

くすくすと笑うと、は顔を真っ赤にした。

*****

「うわ、」

雨が降っている。
どうりで少し肌寒かったわけだ。

昼間はあんなに日が出ていたのに。

「じゅーだいめー!傘持ってますか!?」
「ううん」
「なら俺のを!」
「…いや、いいや」

今日は一緒に帰る人いるし。ツナは少し引きながらそう返す。

ツナは鞄を掴んで、隣のクラスへと向かった。

*****

「ツ、ナ君、雨、ふっちゃ、ったね」
「うん」
「傘持ってる…から、入れてく、よ」
「あー良かった!ありがと!」

これでが持っていなかったら獄寺の傘を借りる事になるのだが。
は傘を持っていたのでツナはほっとする。

「ちょ、っと待ってて」
ー」
「ごめん、ちょ、っと待って」

あちらで手を振っているのはきっと友達だろう。
と違って積極的そうな子だ。

はその友達と少し喋ると、鞄を持って、
こちらへテトテトとやってきた(可愛い)。

「じゃ、あいこう?ツナ、君」
「うん」

*****

パン、と傘を開く音。

桜色に、白のウサギが描かれただけのシンプルな傘は、
どこか、ににあっていた。

「ツナく、んのほうが、背、高いから」
「うん、俺が持つよ」
「あり、がと」
「ううん、いいよ」

元々背の低いツナよりは5cmほど小さい。

ツナが傘をさすと、隣におずおずとがはいる。

「きょ、う、晴れてた、のにね」
「うん、天気予報でも晴れって言ってたんだけどなぁ」

水のはねる音と、靴の音。
後は、話し声。

「…、」
「ねぇ
「!な、に?」
「久しぶりだね、一緒に帰るの」
「う、ん」

の顔が、ぱぁっと輝く。

いつもは山本と獄寺(とリボーン)と一緒に帰っているから、
本当に久しぶりだ。

「えへへ」
「(可愛い)」
「ツナ、君と一緒にいるの、楽しいよ」
「そう?」
「うん」
「俺もと一緒にいるの楽しいよ」
「…う、ん」

顔を少し赤くして、はにかむ

「あ、」


俺の家だ。


「ありがと、
「うう、ん」
「また、明日な」
「明日、ね」

はにかむ。あの、少し困るような、可愛らしい笑み。
昔から、変わらない(抱きしめたくなるような)、






「な、に…」





すこし、屈んでの額に唇を寄せて、

妖精
(またね、バイバイ)