「し、失礼します」

色素の薄い髪が、扉から覗く。
彼女が、来た。

そう思うだけで、顔が緩む。

「ああ、来たんだ」
「あ、あの、ひば、りさん、わたっし、まだ、授業、が」

それはそうだ。
朝早く、一時間目の授業中に校内放送で呼び出したのだから。

彼女― ―は恥ずかしさからか顔を赤くして、
焦っているのか目にうっすらと涙の膜を張らせきょろきょろと視線を動かしていた。

「まぁ、座りなよ」
「は、い…有難う、ござい、ますっ」

すとんと腰をおろすとこちらをちらちらと見る。

「…落ち着いた?」
「!は、い」

少し驚いた表情をした後ふにゃり、とは笑う。
…可愛い。

「紅茶飲む?」
「あ、いい、です」

じっとを見ると目線を泳がせ、頬を染める。

「…な、んです、か」
「…可愛いね」
「!はなっし、聞いて、くだ、さい!」

顔を真っ赤にしてそう言う
怒っているが、本気ではない。

内心笑いながらもそれを顔には出さずの頬に手を伸ばす。

「!」

びくり、と肩を揺らす。…可愛い。でも、噴出しそうだ。
笑いを堪えて、顔を近づける。

「ふ、ぁ」

情けない声も、にはどこか似合う。
顔を真っ赤にして、眉をぎゅっと寄せ、目を閉じる。

「…いい香りがする。…レモンティー?」
「あぅ、…は、い」

目を閉じたまま必死に答える
甘い香りが、ふわりと漂う。

「ふぅん。朝飲んだの?」
「はっ、い…あ、の」
「何?」

自分でも今、
意地の悪い顔をしていると感じる(は目を閉じてるから
分からないだろうけど)

「わたっ、し、いつ、まで、この、ま、ま、なん、ですか」
「…くっ」
「!」

は目をぱちりと開けると、呆気に取られた顔をした。
ちなみに僕は口を押さえて笑っている。

「か、からかった、ん、です、か!?」

いつもはそう簡単には怒鳴らないもこの時ばかりは声を大きくした。
大きな声でも、詰まる喋り方は健在らしい。

「っふ、が、可愛くてね」

そう言って、笑うとは俯いてぴたりと止まる。
…やりすぎたかな。

?」





「…ひば、りさん、は、ずる、い、です」
「ワォ」

の口から出た小さな反抗的な言葉。
どこかの映画で聞いたような台詞だ。

「何で?」
「わた、私、雲雀、さんが、可愛い、って、言う、と
他の、事とか、気にならな、くなっちゃって、
怒ってる事、とか
泣き、たいこ、ととか










全部、忘れ、ちゃうん、です」










ワォ。それって告白?

はゆっくりとこちらにとてとてと歩いてくる。
顔はまだ俯いたまま。
それでも、さらさらとした彼女の髪から見える耳は赤い。

そのまま、ゆっくりと僕の腰に腕を回す(ワォ)。
は顔を押し付ける。

「わた、ひば、さんに、勝て、ない、です、いっしょ、う」

くぐもった声が聞こえる。
シャツの一部が熱い(きっとの息がかかっているから)

「…勝てないの?」
「勝て、ない、です」
「…僕は君に負けてる気がするんだけど」
「…気の、せい、です」
「…気のせい、ね」

くすくすと笑い、
彼女の髪をすく。

そして、ゆっくりと顔を上げさせれば、潤んだ目に、
真っ赤な顔(可愛い)。










「大丈夫、よく言うでしょ?」










”惚れた弱み、ってね”





ぼ く は ゆ っ く り と く ち び る を お と し た 。

僕だけの
限定
(君にそんな顔をさせられるのは、僕だけ)
(僕にこんな顔をさせられるのは、君だけ)