人生とは時に苦く、時に甘く、時に酸っぱく、苺のような物であると思う。

だが、しかし。私の前ではその苺は酸っぱすぎやしないか、と思うのである。





苺の筈なのに酸味が強すぎるとは此れ如何に。



「やあ」
「やあ、じゃねーよ

朝、ふらふらと覚束無い(おぼつかない)足取りで居間へ向かったところ、
勝手に人様の家に勝手に上がりこみ、炬燵でぬくぬくとしている不届き者を発見した。

恥を知れ。


「なんでお前が居る」
に会いたかったからね
帰れ

私が一睨みしても手で追い払う仕草をしてもそれを物ともせず笑うと、
机に顎を乗せる男…雲雀恭弥。





いつも着いて来るな!





「お前気持ち悪いぞ」
「何が」
「何がって…」
僕はが好きなんだ。其れの何が悪いの





否、いろんな場所に神出鬼没するのが悪いと思うのだが。





まぁ、同性愛を咎める訳では無い。
私はそんな事を気にするように小さな男では無い。
というかそういうものについていろいろと議論するのは苦手なのである。

まぁ、いいや、と雲雀はテレビを点ける。
何も良くない、何を一人で納得している!

「おい、勝手に人の家の物を触るな」
「いいでしょ、その内僕の家に為るんだから


嗚呼そうかお前の中ではもう結婚は終わってんだな、
後は一緒に同居して夜の営みでもするのか、
おめでとう。





そう、そして私は関係無い。





妄想に私を巻き込むな、確かに私も妄想するさ、
自分の想像力というか妄想力に舌を巻く事も或る。
ただ被害妄想だけは止めてくれ。

「お前一体何しに来たんだテレビなら家で見れるだろう」
「…名前」
「?」
「っだから、お前、じゃ無くて」
「雲雀?」





何故其処で頬を染める。





さすがに細身の小柄な可愛らしい女子や、
大人らしい振りをして初心(うぶ)な綺麗な女性が頬を染めるのは良い。
微笑ましく、なんとも言えない気持ちに為るであろう。

だが良い年をした少年が頬を染めても何も生まれてこない。
そこまで男らしくなく、顔が整っているのがまだ幸いだ。


「………其れで何で此処に来たんだ」
に会いたかったって言ってるでしょ」
「目的だよ目的」

そう会話しながら私は湯飲みに茶を注ぐ。
透き通った緑色から出る白い靄(もや)に顔を緩めながらも、
雲雀に問う。


「黙るのか。まぁいい」

少し優越感に浸りながら茶を啜ると、
雲雀も手を伸ばし茶を啜った。

ずず、ずっ、という茶を啜るにしては大きな音が響くので
私は横目で雲雀を見た。

「…お前何泣いてんの
「…だって、が、意地悪するから










俺の所為か。










おっと、ついつい口調が戻ってしまった。

というか、泣きたいのはこっちなのだ。
ただ大の男が泣き出しても気味が悪いだけであろう。
泣いても良いと言うのなら某ドラマのタイトルの様に大量の涙を流すであろう。
その内目を真っ赤に腫らし、最終的には意味不明、理解不能な言葉を口走りつつ
部屋の物を破壊していくという奇行に走るのだ。






というか、本当に今日の雲雀は乙女のようだ。





…失敬、乙女の皆様に失礼だったな。前言撤回。

私の中の罪悪感がちくちくと心臓を虫歯菌の様に三叉槍で突付くので
私は顔を歪めながらも一度雲雀を泣き止ませる事にした。

「悪かったな」
「…(ぐすっ、ぐす)」


雲雀は泣き止まない。

どうすればいいんだ、女子ならまだしも相手はまごう事無き男だ。
下手すれば咬み殺される。






嗚呼、神よ、お前はどうせ天から俺のことを嘲笑っているであろう。





「…お願いだから、泣き止め」
「…どうせ、は、僕が泣いてるから、慰めてる、だけでしょ」
「(…参ったな)」










図星すぎて言葉が見つからん。










「…そんな事は無い」

否、あるのだが。

目の前に美女が居るから誘う、等というフザケタ野郎では無いが
目の前で泣いているのだから、慰める。
そういう自然的行為だ。

今、私のことを馬鹿野郎、然るのち死ね、と罵っていた奴らよ。





実際私の身に為れば8割方私と同じ行動をとると予測できるぞ。





ほ、ん、とう?
「ああ(だから泣き止め)」
僕、迷惑じゃない?
「ああ(迷惑だ)」

ぱぁ、と顔を輝かせる雲雀。
いつもは眉間に皺を寄せ仏頂面で笑うといってもニヤリ、としか笑わないくせに。





私の内心とは裏腹な言葉に少女漫画のヒロイン然り笑うとは、
…ご愁傷様。






私は心の中で手を合わせ、再び機嫌を取り戻し
今にも鼻歌でも歌いそうな風紀委員長様をじっと見つめる。

「な、何?」

?」





いや、
だから。

何故、
(そこで頬を染める?















此処で後日談というかちょっとした未来の話をしておこう。
この日から私は恋に恋する乙女の様に雲雀のころころと変わる表情を見ていた。
ちなみにあくまで例えだ。恋しているわけではない。





その内私は元が美人な雲雀は笑った顔が一級品だという事に気がついた。
にやり、では無い笑みだ。
そしてそれを見れるのは私だけである。
そう思った瞬間に私は風邪をこじらせた。
熱で頭は朦朧、体はふわふわと落ち着きが無く、息が苦しい。
頭の中でいろいろと沢山の私が議論を重ねる内、
知ってしまったのだ、

あ、恋。