「こんにちは」

柔らかい砂漠の中で涼しげにたたずむ少女。

私たちは、今、視点となってそれを見ている。

周りの風景はぼやけ、彼女の顔も覚えづらい。
彼女が特徴の無い顔な訳ではない。
ただ、ぼんやりとして、意識がはっきりしない。

しかし、そう考える事は出来なかった。

少女は金髪を右下で一つに結んで、目は緑と青が混ざったような色。
白い膝下のドレスを着ていた。
首にはピンク色の薔薇がついたチョーカーをはめていた。

?」
「何?正一」

少女のほうはと言うらしい。
正一と呼ばれた少年は自分が少女の名前を知らないのに
少女の名前を呼べた事に、何の疑問も無かった。

「あれ、乗りたい」
「ああ、ジェットコースターね」

ふふ、とは笑い、正一の手を引いて
「ジェットコースター」と呼んだ物に向かっていった。
しかし、そこにあるのはメリーゴーランドの木馬、1頭だけ。

青と緑が沢山使われた木馬は、の目のようだった。
周りを見渡せば、いつのまにか砂漠ではなく、小さな廃墟になっていた。
きっとこの木馬のあった遊園地だ。
が、背景が変わったことに違和感は無かった。

まるで、それが当たり前だとでも言うように。
その所為で正一は疑問を持たなかった。

「正一」
「何?」
「私は、貴方なのよ」
「へぇ」
「貴方は私なの」
「じゃあ僕はなんだね」
「そう」

ただ、ひたすらに木馬をぺたぺたと触る。

そういえば、先ほどから視野が狭い。

きっと正一の視野もそうなのだろうが、
無理やりに見るようなそぶりは無い。
寧ろ、視野が狭い事に気付いていないようだった。

ふと、彼女は正一の肩を叩き指を指す。
正一はそちらをむき、私たち視点もそちらをみる。





そこには女性…おそらく少女と思われる骨がかかしのように立っていた。
首には、ピンク色の薔薇がついたチョーカー。
体には、ぼろぼろで薄汚れた白い布がついていた。





突然正一は人間とは思えぬ飛躍をし、
そのジャンプから骨を蹴った。
上空で浮いた正一の足は骨の頭の額の部分に当たった。

ころり、と落ちたそれを目で追うと、
いつのまにかそれはクマのぬいぐるみに変わっていた。

瞬きしている間にすりかわったようにも見えるのに、
正一とは驚かず、それを見てから話をしていた。
でも話題はそのことではなく。
なぜかが「じゃあね」といっていた。

の手にはギターケース。

正一はそれを手を振って見送っている。
はいつのまにか黒いタクシーに乗り込んでいて、
そして周りの風景も何故か学校の校門に変わっていた。

そこで、全てが暗闇になり、ブラックアウトした。
さて、私たち視点も消えるとしよう。





*****





「…変な夢だな」

ふあ、と正一は欠伸を零す。
たった今、正一は夢の世界から戻ってきたのだった。

「夢、ですか」
「わっ」
「すいません」

くすくす、と笑う彼女…
正一の部下である。

「どんな夢です?」
「え…どんな夢だったかな」
「ふふ、忘れちゃったんですね」
「…え、まあうん…が出てきた事は覚えてるんだけど…」
「へぇ」

”私は、貴方なのよ”
”へぇ”
”貴方は私なの”
”じゃあ僕はなんだね”

ドッペルゲンガーの夢


(本当に、どんな夢だった?)