彼は、最近授業に出るようになった。

そう、自意識過剰かもしれないけど、私と話した日から。



「…おはよう」
「おはよう」

あー驚いた。
なんでって?朝早く学校にきたら教室の中を見回してる雲雀君(同い年だから君でいいよな)がいたから。

「何やってるの?」
「見回り」

ああ。それでか。
そういえば

「…雲雀君学校好きなら授業出ればいいのに」
「は?」
「(やべっ!声に出てた)」

とっさに勝手に喋ってしまった口をふさいだ。
今、この口を袋叩きにぼっこぼこにしてやりたい(あくまで、例え、だ)。

「…なら出ようかな」
「は?」
「君面白いね」
「(会話噛み合ってませんけど)」

それでも、私は初めて笑った雲雀君の顔を見た(ワォ!)。
元々美人さんだから破壊力抜群だ。

「友達、になろうかな」
「…群れないんじゃないんですか」
「二人だったら群れてるとは言わないよ」
「(言うと思った)…さいでっか」

もう諦めよう。
そう思ったあの日から、雲雀君は教室に来るようになった。



今思うと、突拍子な話で、夢だったんじゃないかと思う。

そしてその日から私は恋に落ちた。
もちろん、その黒髪の彼に。

少女漫画のようなベタな展開が起こって欲しいと思いつつも、起きないのが少し悲しい。

「…
「…あ、何だった?」

雲雀が話し掛けていたのに今気付いた。

始めは雲雀も苗字で、と呼んでいたけれど、後々にいつの間にやら変わっていた。
私も、雲雀君、からいつのまにか雲雀、になっていた。

とことん、男友達のようだ。

私と雲雀が友達なのは学校中の噂であり、
そして私は恐れられるようになってしまった。

…別にいいけど。

「昼ご飯」
「ああ、屋上行こうか」

席を立ち上がって、水玉のお弁当箱を持つ。



風が気持ち良い。

フェンスにもたれて、下の景色を見る。
雲雀も隣で、紙パックのジュースをすすりながら景色を見ている。

何も知らない人が見たら友達か恋人、には見えるのかもしれない。

恋人、という言葉に少し動揺する。
違うから、悲しい。
間違えられて嬉しい。

ああ、女子がよくいう、「苺味の恋」やら「さくらんぼの恋」だなこれが(私が勝手に名づけたんだけど)。

甘くて、酸っぱいってやつ。

…本当、私は男友達だったらよかったのに。
そうすればきっと雲雀にも惚れない…事も無いかもしれないな。
そしたら余計に壁が増えるだけか。

まあ、女子だった事には、少し感謝しよう。
あーあ

「世界に二人だけだったらよかったのに」
「は?」
「あ(また口に出てた…)」

あの時、みたいに。
この際告白もさらっと口から出てしまえば良いのに。

恋のことばかり考える私は完璧に、乙女だ(はたから見たら違うだろうけどさ!)。
なんか悲しくなったので、フェンスに頭を乗せて、じわりと涙をにじませる。
あ、意外と涙って出やすい。私女優になれるかも(なんて)

いつも恋は知った気でいて、段階を踏めば簡単に結ばれる。
が、そんなのは無理な話なんだよな。

「何泣いてるの、

あーあ。これで告白したら、アウトかセーフなんだけど、残念ながら分かんない。
なんかアウトのほうしか考えられないな。

「ちょっと?」

アウトになるくらいだったら、友達のままが良い。
って言うのも少し分かる。

「…

でもそのままじゃずっと永遠にこの思いは回りつづけるだろう。
それじゃ変わらないんだよ。










!」










「わ」

びくり、と体が揺れた。

「な、何?」
「さっきから呼んでも返事無いし。
思い詰めた顔してるし。
……それに、泣いてるし」
「え、嘘」

そういわれて自覚する。
頬の冷たい何かが通ったような線が風に吹かれて、
もっと冷たくなる。

「ごめ、ちょっとね」

雲雀はごしごしと服の袖で私の涙の後をぬぐう(痛い、けど嬉しい)。

「なんかあるんなら相談しなよ」
「あ、うん」
「友達なんだから」

その言葉がくさりと心に刺さって沈んでいく。
声が出なくなりそうで怖かった。

「友達、だもんね…」
「そうだよ」

友達。
だからこそ










「上らなきゃ…ね」
「は?」
「んーん、こっちの話」

寒い風のように、涙が出そうになっても、
ぬぐってくれる恭弥が居るのなら。

「ありがと、恭弥」
「…いいよ」

私は何処までも走る。

茨を抜けて、痛くなって、涙が出ても、そこにぬぐってくれる恭弥がいるのなら、

イ、
(友情って、良いな!)(は?)((でもやっぱり友達のままは嫌だな…))