「有り得ない」
「…んな事無いってば」
「噂とは元々大した事ではない、
事件等に余計な事を付けて面白くさせた物であって
決して真偽の程は確か「あーもうわかったから!」
「人の言葉を遮(さえぎ)るとは失礼にも程が有る、花」
「アンタのその辞書を引いたみたいな喋り方イヤなのよ…」
「…」
そこまで私は確(しっか)りした喋り方をしていたのだろうか。
…否(いや)、そんな事は無い。
「沢田綱吉が私に惚れている?沢田綱吉が好きなのは京子であり、
周囲も承知の筈(はず)」
「…ハァ」
「何故?」
私は次の授業に向け、教科書を開く。
「…ねぇ、何とも思わないの?」
「一時の感情に振り回される位なら
自分からはっきりと発言したら良い、
それにそんなものに構っている暇等無い」
「(あちゃー…)」
本能の侭動くのは勝手だが
周囲の人間や特に私に迷惑さえ掛けなければ良い。
「沢田も大変ね…」
「何故?」
「(アンタのその性格よ…)」
*
「…沢田綱吉」
「あ、あ、さん」
「何を?」
「あ…えっ、えっと、今、プリント落としちゃって」
「…」
「え、え?」
「何でも無い。…手伝う」
「あ、ありがとう」
白い紙もきっちりと字が並んでいると綺麗だな。
「…あ、あのさ」
「…何だ?」
「、さんてさ、あの、そのす、」
「…」
もっと滑らかに発言できないのか。
「好きな人、とかいる?」
「好きな人、と言うのはどの様にだ。
利益があり、好きなのか、
それとも、本能の侭に好きなのか」
「えっと、後者…?」
「なら、父、花、京子、」
「お、お母さんは?好きじゃないの?」
「普通」
「(普通ー!)」
人として基本的に優しいが趣味が合わない。
「あの、じゃあさ、こう恋愛的には…?」
「恋愛だって本能の様な物だろう。
だが、一般に言う「恋」と思える物は恐らく無い」
「へ、へー」
如何しても、其れが分からない。
「恋…とは何だ」
「えっ」
其処まで驚く事は無いだろう。
「そ、そうだな」
「…」
「こう、笑顔を見るとドキドキする感じ?」
「大まかな説明だな」
「う…」
「もっと、分かり易く言えないのか?」
「え、えっとじゃあ」
「オレ、が今、さんに対しておこってる、異常現象??」
嗚呼、何故か今なら分かる。
恋と言ふ物
(胸が高鳴り、上手く発言できず、顔に熱が集まるのだな)