Joy Syndrome





「おい、構え馬鹿」
「あだーっ!ちょ、髪掴むのはヤメロ!」





とある休日。
私は暇だった。しょうがないから、誰かと遊ぼうと思った。




しかし、皆何をそんなに忙しいのか、私の誘いを断っていく。
私は暇で暇で、退屈が私を殺すんじゃないかと危惧して、一番暇そうなヤツの元へ来た。

しかしどうだろう。そいつは、私というすばらしい人間をほったらかしにして、楽譜と向き合っていた。
その阿呆そうなサングラスごと目を潰そうかと思ったが、優しい私は髪を引っ張る事で譲歩してやった。
少しぷちぷちという音がしたが、大したことではない。私の膨大なる退屈に比べたら。





「大体オレは馬鹿って名前じゃねーっつのM・Z・D!ほら復唱!」
「ば・か」
「〜っ!」





MZDこと馬鹿は、何かに打ち震えながら拳を握っている。
しかしその拳が私に向けられる事は無い。そこだけは、馬鹿は馬鹿なりに褒めてやろうと思う。





「大体オレは馬鹿じゃねー……そうだ、オレは創造”神”なんだ」
「お前にくっついてるヤツが、お前は全然仕事をしなくて駄目駄目だと言っていた」
「影てめぇええええ!!!」
「まぁ待て」
「ぐえ!」





あまりにも哀れなので、馬鹿からMと呼び名を昇格させる。
Mは私にフードをつかまれ首がしまってしまい、今はぱくぱくと金魚のようだ。「は、な゛ぜ〜!」

「おお」ぱっと力を緩める。
「……っ、おお、じゃねンだよ!暇なら金やるからゲームセンターかなんかで遊んでこい!」
「人と接していないと生きている気がしない」
「〜っ」





Mは眉間に皺を寄せたまま、椅子にどっかりと座りあぐらをかく。
足に膝をつくと、こちらを見た。「……何をすればいいんだ?」





「……は?」





頭が可笑しくなって私の奴隷にでもなりたいのだろうk「だから遊びに来たんだろうがおめーはよ!」

「ああ、そういう意味か」
「どういう意味だよ……」
「どうせMの家だからTVゲームでいい。最新の」
「”どうせ”ってなんだコラ」





終いには外に放り出すぞ、と脅かしてくるが、別にそんなのに怯える私じゃない。
むしろお前をこの世から消してやるぞと言ったら青筋をたてながら口をつぐんだ。





     ★★★





「……ゲーム弱いんだな」
「ほっとけ!神様は忙しいんだよ……っ!」





本当に哀れに惨敗したので、つい慰みをかけてしまう。
Mもそれはダメージだったようで、そっぽ向いてコントローラーを手から離してしまった。





……にしても、ゲームをやらないのに最新ゲーム機があるとは、Mのくせにけしからんな。





平らな形になってしまった親指を見つめながら、レッツ雑談をしようと口を開く。





「……Mは何で私に付き合ってくれるんだ?」





……まるでしおらしい質問だな。私に似合わん。

Mは怪訝そうな顔をしながら、ゲームのセレクト画面を見つめている。
サングラスに画面の光が映って、オタクかナルシスト眼鏡みたいでキモい、と思った。





「はあ……?お前が遊べって」「違う、それなら無理矢理追い出せばいいだろ」
「分かってるんなら出てけよ」
「それは断る」





……実際のところ、迷惑をかけている自覚はあった。
だけどコイツは本気でキレない。それが不思議で、大変不愉快でもある。
キレちゃえばいいのに、と思う。

そもそも私は何故こいつに迷惑をかけたいんだろうか。
M限定にS属性が発動するのだろうか。……ううむ、この文では紛らわしいな。
M=MZDな。馬鹿でも良し。





「そもそも私は。何で馬鹿なんかを苛めているのだろう」
「オイ、心の声出てんぞ」
「失敬」
「……オレは別にいいけど」
「……」





は?と思いつつMの顔を見る。ぶっちゃけた所、少し退いた。
何でコイツいきなりM発言してんだよ、と。
……ああ、この場合のMはマゾい方。

汚物を見るような顔をしていたら、Mは「ばっ、ちげー!そういう意味じゃねっつの!」とか言ってきた。
別に何も言ってないんだが。





「別にお前は……まぁウザイけど、嫌いじゃねえよ」
「その言葉そっくりそのままお前に返すぞ」
「オレがい・つウザかったですか!」
「さぁ」





ウザいと冗談で感じたことはあるが、本気で思ったことは0に近いかもしれない。というか、0か。
立場はこっちの方が上だしな。





「じゃあお前は私が好きでもなく嫌いでもないと」
「そうだ」
「だから付き合う?」
「おうよ」
「何で偉そうにしてんのお前」





お前の相手してやれるのはオレサマくらいなんだよっ、と馬鹿は小さく毒づいた。





★★★