さん……いいお天気ですし、あの、お外に」
「んー、ちょっと待ってください、あと2本アニメ残ってるんで」
「……」





こんにちは、日本です。
私は今、居候兼身の回りの世話などをしてくださっているさんに、
散歩のお誘いをかけている真っ最中。





……なのですが。





「うおーゆーちゃんかわいいよゆーちゃん。
今日の回はゆーちゃんサービスですなあ」
「……」





ご覧の通り、彼女はテレビの画面に釘付け、半分ニート状態なのです。
まぁそんなところも可愛らしいというか、
そもそも彼女にアニメその他娯楽を勧めたのは私なのですが。





……正直、こんなにハマってしまっては、取り付く島もない。

初めは出来心だったんです。彼女が私と同じ趣味に目覚めて、
そして色々とお互いに気の合う話でもして、とか甘い考えがあったんです。

……ええ、私は彼女のことが大好きですが何か。





ハマりたての頃はいろいろなことを教えて、
それを素直に覚えるさんに愛しさと萌えとその他色々感じ取っていたのに。

今ではもう、彼女の眼中にはアニメその他萌えしかない。
つまりアウト・オブ・眼中・私。





ええ、もう今にも白いハンカチを口で引きちぎりそうです。
らしくないので実際にはしませんが。





しかし私の心には、ゲーム、漫画、アニメ等に向けた憎悪を
精一杯込めたハンカチの残骸が錯乱しているのです。

爺にもなってこんな感情を味わったりするとは、私もまだまだ若いですね。





彼女が諦めてテレビを消し、
立ち上がってくれないかと期待して彼女の背後に立っていたのですが、
彼女は私という存在など全く気にもとめず、箱の中の男に夢中です。
けしからんと思います。

「……」

しょうがないので、彼女の後ろに座って、
「一緒にアニメ鑑賞をしている擬似オタップル」と成り下がる事にしました。





「……」
「ちょ、おまwwwおまwww空気嫁ww」





こんな彼女に誰がした。……私です、申し訳ありません。





やっぱりさんの笑顔が、二次元に向けられているのは悲しい。
私を見てくれないだろうか、と思って彼女に手が伸びる。





そろりそろりと怯んでいるのは、背徳ゆえか。





彼女の服の裾を掴み、引っ張る。ああ、背中の肌色が見える。私の破廉恥。





「?」
「……」彼女が振り返る。
「?何ですか、日本さん」
「あの」
「?」

彼女は首をかしげながらも、一時停止を押してアニメを止める。
私は何を言おうか迷って、けれども彼女には直球正直にあらねば、と思った。





さん」
「はい?」
「……アニメとか、二次元とか、それも楽しいです。
私も、好きです。
でも、





もっと、私も見てください」





全ての台詞を吐き尽くした瞬間、かあ、と顔に熱が昇る。
彼女も少しきょとんとしてから、すぐに顔を赤く染める。





「……」
「……」





二人して押し黙ってしまう。
彼女の背後は、「どうぞ何か喋ってください」オーラが見えるが、
多分私も「善処します」的なオーラが出ているに違いない。

……ああ、これなら大人しくアニメ鑑賞していたほうが、
正解だったかもしれません。





恋うる