「溺れるような幸せなんていらないよ、足首が浸かるくらいの幸せでいいよ」
「……それが失恋の言い訳か?」
「煩い、違うもん」

べそべそと、涙腺の緩みを再開させた。何が楽しくて、好きな奴の失恋話を聞かなければならないのだろうか。
……まぁ、丁度告白しているところに出くわして、出歯亀していた俺も悪いのだが。

昼休み、は好きだったどこぞのクラスの男に告白し、玉砕した。
男の返答は、「彼女いるから、他校に」だった。

「……」
「……っ、……」
「……(ぐずぐず煩っ気まずっ)」

それにしても、あんな奴のどこがいいのかね。俺には正直理解できん。
あんな奴だったら、まだ古泉の方がルックスはマシだ。性格は最悪だが。

いまだなきつづけるには目をやらず、正面に向かって問い掛ける。

「なぁ、お前あんな奴のどこがいいんだ?」
「全部」

泣きながら即答するという、妙技を見せてくる
中庭の木の下は影が落ち、の今の心境を、淡々と表しているようだった。

しかし、良い所が全部とは。あいつがもしも大量殺人鬼でも、こいつは同じ反応をするのだろうか。
俺はすると思うね。何故なら俺も、の全てに惚れこんでいるからである。
……言っていたら恥ずかしくなって来たので、黙る事にした。静まれ、熱。

さわさわと風が吹き、のスカートの端が揺れた。
が風に埋もれるように呟く。

「好きなだけじゃ駄目なの?」
「……」

じゃあ俺も言わせて貰うぞ。





そもそも俺は、不謹慎ながらこの状況を喜んでいた。
この惚れっぽい娘さんは、小学生の時も、中学生の時も、好きな奴を作っては俺の肝を冷させた。
でも、大体それらは悲しい結末しか待っていなかった。
中学に至っては、付き合っていたものの、
最終的に相手から別れ話を切り出されるという(にとっては)悲惨なものであった。

俺も俺で、何度も勝手に失恋し、そしてまた惚れ直し……をずっとくり返している。
まるで、コイツが俺に術でもかけているかのように。嘘のような本当の話だ。





「私、幸せになりたいよ」
「ああ、俺もさ」
「……キョンは幸せじゃないの」
「暴走予想外予定外な団長に振り回されているうちは幸せじゃねーよ」
「うそつき、涼宮さんのこと好きなくせに」
「どこの情報だそれは」





はすん、と鼻を啜ると、もうちょっとだけ泣く、と呟いた。
俺は、そーかい、と適当に返事をした。
もうすぐ授業だが、コイツと一緒ならサボるのも悪くないかもな、と思った。





俺も幸せになりたいよ
足首浸かるくらいでいいからさ。