「そーちゃん、けが、しないでね」










「総悟、怪我、しないでね」










「沖田さん、怪我、しないでくださいね」










えへへ、と力なく笑う顔を、守りたくなって。





あの日から、はちっとも変わってないんでさァ。
外見とか、言葉遣いが変わっても、」は「」のままで。

*****





あれ?沖田さん?





目の前の、綺麗な青が隠れる。





「…

ぼうっとしている沖田の顔を覗き込む
の長く綺麗な髪が、肩からするり、と流れた。

「どうしたんですかー?今日は土方さんに悪戯、仕掛けないんですか?」


くすくす、と笑うに、
沖田はむすっとした顔になる。

「(何で土方なんですかィ)…今日は、非番でさァ」
「あ、そうなんですか。実は私もですよ」

ぼうっとしてるから、もしかしたら、と思って声をかけました、
という

沖田の横には腰掛ける。

は女中であり、この真選組に住みながら仕事をしている。
立場としては、妹のようなもの。
他の女中とも仲が良く、いつも楽しそうに話をしている。





そして、沖田のたった一人の幼馴染でもある。





「じゃあ今日はいっぱいお話できますね!」
「…そうですねィ

満面の笑みでそうに言われて、
先ほどのちょっとした嫉妬は、すう、と消えて、
変わりに、顔の筋肉が緩む。

「(そうでさァ。折角が居るんだから話した方がいいでさァ)」

うんうん、と頷く沖田を不思議に思いながらも
は話し掛ける。

「そう言えば、明日お団子を友達と作る約束してるんです!
だから、出来たら沖田さんにもあげますね!」
「…
「はい?」

ふと、思いついたように沖田はの目を見る。
の澄んだ色の目が、沖田をうつしているのが微かに分かった。

それ。その敬語、いらないでさァ
「え」
「前はそうだったろィ」

前、とは昔の事。





真選組が出来る前はも名前で呼び、敬語も無かったのだが、
いつからか壁が出来たように敬語と苗字呼びに変わっていた。
とは言ったものの、そこまで壁は厚くないようだが。





「…えーと、そーちゃん?」
それはちょっと戻りすぎ

少し前すぎる。

「じゃあ総悟

そうだ。
これが、真選組が出来る、少し前から浸透していた呼び方。

満足したように頷きながら笑う沖田にはきょとん、としてから、
ぼぼぼ、と赤くなる。
そして咄嗟に、顔を逸らす。





「(…ちょっと…恥ずかしい…んですけど)」





顔を手で覆って、熱を冷ますようにしてから、沖田のほうを見る。
顔の整っている幼馴染の笑顔は、破壊力があったらしい。
整いすぎている顔は、ちょっと羨ましい、とは思った事がある。


ふぇ!?

沖田が指を差して気付いたように言うのでついついは沖田のほうを向いてしまう。
何かいたのだろうか。
すると、沖田はにやりと笑い、

「…顔赤い
「もー言わないでよ!」

いやぁ!と言って顔をもう一度逸らすに沖田はにやにやと笑う。
は、うう、と小さく唸る。

可愛いですねィ…照れたんですかィ?」
「…悪い?

じろり、と沖田のほうを見る

「いえ」
「…」

むう、と口を一文字にする
しかし、その様子からは本気で怒っていない事が良く分かった。





どちらかというと、照れ隠し。





「今日…暖かいですねィ…」
「…そうだね…」

突然切り出した話は穏やかなもので、
のちょっとした怒りは消えてしまった。

ゆるい太陽の光が気持ち良い。
そう思いながら、口を緩める





「()」





突然、ゆっくりととぎゅう、と握られた手。
吃驚して沖田のほうを見れば、少し耳が赤い。

そんな様子を見て、も少し顔が熱くなる。
ちょっと、骨ばった手が、気持ち良い。
どくり、どくりとなる心臓が、こっぱずかしい。











「(…で、も、ちょっと嬉しい、かも)」
「(、何も言いませんねィ…)」










お互いに少し顔を緩めながら、空を見る。
ゆっくりと雲が流れていく。

少ししてから、
は少し足をぶらぶらさせながらぽつり、と沖田に話し掛ける。










「…総悟」
「…何ですかィ」

小さな小さな声を、沖田は拾う。

怪我、しないでね

ずっと前から、何回か言われてきた言葉。
沖田からはの顔は見えないが、きっといつものようにへら、と苦笑しているに違いない。

「それは無理な話でさァ。土方コノヤローがオレに向けて抜刀してくるんだから」
「じゃあ最低限でいいから」
んー

そう返す沖田に、は少し怒ったのか、
少し乱暴な口調で言う。

「そこは、はいって言ってよ」
「…じゃあ、お守り、欲しいでさァ」
お守り?










嫌だったら、言ってくだせェ









え、と言う前に、今まで見えていた空は消える。
綺麗な色の髪が、額にさらさらと当たる。
限られた視界の中で陰に光が差し込む。






ふんわりと唇に触れたもの。
不思議な感覚が、する。

それがすぐ離れて、状況を理解してから、は赤くなる。
驚いて目の前の沖田を凝視すれば、沖田も沖田で真っ赤で、
もっと顔に熱が集まってくる。





「()」
…っ





赤くなりながらも、脈アリですかねィ、などと沖田が考えている事も知らず、
は口を手で覆って顔をそむける。

」と沖田は声をかける。
」返事は無い。
」少し寂しそうな声がする。
」ぴくり、と反応するものの、は沖田のほうを向かない。

は決心したように、ぴし、と背筋を伸ばすものの、すぐ力が抜ける。
が、すぐにまた力を入れて、少し詰まるように言った。










「…お守り、一回、で、十分で、しょ
「()…まぁ」










「だから」










顔を向けたは、赤くなりながら照れくさそうに笑っていて、
それが、どうしよくもなく綺麗で、沖田が目を見開く。

そして、つむがれた言葉に、沖田はぽかん、としてから、顔に熱が徐々に集まっていく。












(それって、)(あー知らない知らない!何にも聞こえない!)(…可愛い)