「いらっしゃいませ!」










*

ここはケーキ店、ラ・ナミモリーヌ。
中々美味しいと評判のこの店は、最近、ある人物も話題になっている。





「またどうぞーっ!」





ボードの少し掠れたメニューを書き直し、顔をくるりとむけ挨拶をするこの少女は
高校生であり、小遣い稼ぎのためバイト中。

このこそ、最近話題の人物である。





なぜ、彼女が話題になっているのか。
それは……










「あ、ツナくんたち、こんにちは!」
「こっ、こんにちは!」










この、花の咲くような笑顔にある。
決して華やかではないが、見る人を安心させるやわらかい笑み。










「今日もケーキ買いに来たの?」
「あっ、はい、母さんに頼まれて……」

は、うんうん、と頷いた。
感心しているらしい。

「隼人くんと、武くんは?」
「俺らは付き添いと、さんの笑顔を拝みに」
「何いってんだ野球馬鹿!」





相変わらずのやり取りに、は思わず、大きく笑った。
山本に絡む獄寺も、
暢気に笑う山本も、
それを止めている綱吉も、ぽけーっとしながらほころぶようなそれを見た。






はぼうっとしている三人に首をかしげていると、ふと彼らの後ろに常連客がいることに気がついた。






「あ、恭くん」





「やぁ」
「恭くん……?って、雲雀さんー!?」

はっとして、不思議そうに振り向いたツナの目に映ったのは、少し口元を緩めた雲雀だった。
しかし、緩められていた口元も、三人に気付くと一文字になった。





「君たち……ここで何してるの」





「ひっ」
「ひ、雲雀、俺らは……」

必死に山本とツナが弁解するなか、
は自分のことのように誇らしげに笑った。

「あのね、おつかいでケーキを買いにきたんだよ、ね、ツナくん」
「そ、そうなんです!(助かったー!)」
「ふぅん……」

雲雀は興味なさげに返事をすると、につかつかと近づいた。
は首を傾げる。

は早く仕事をしなよ」
「あ、そうだ……店長に呼ばれてたんだった、ごめんねツナくん、後で!恭くんはありがと!」





が急いで店の中に戻ると雲雀は振り返り、三人を唸るようににらみつけた後、去ったのだった。





「ひ、雲雀さんこえ〜っ!」
「まだ見回り中なんですかね、アイツは」

山本はからから笑っていった。





「まっ、どっちにしろ、宣戦布告だな!」





ツナと獄寺は、ごくりと喉を鳴らした。

*





午後のため、ウィンドウの前に少しだけ列ができていた。
ツナたちがやっとウィンドウ前につくと、そこにはがいた。





「あ、いらっしゃいませー」





は悪戯っぽく、へへ、と笑った。
ツナたちはその笑顔に癒されながら、ショーウィンドウに目線をずらした。

「んー……どれがいいんだろ……」
「今日はね、基本的なショートケーキが美味しいよ。甘い苺を使ってあるから」

へぇ、とツナが頷いたとき、店の扉が開いた。





ーっ!」
「犬、うるさい……」





入ってきたのは黒曜の二人組だった。
一番最初に反応したのは、獄寺だった。その次にツナが絶叫する。

「ゲッ!お前ら……!」
「な、なんでここにいるのー!?」

山本だけが相変わらず笑いながら、「久しぶりなのな!」などと言っている。
犬は嫌そうな顔をした。

「今はお前と話してるヒマはないんれすー。あっちいけ」
「……

犬がしっしっ、と払う仕草を見せると、獄寺は額に青筋を立てた。
は苦笑しながら、「駄目だよ、犬ちゃん」といった。

「ちぇ。……そうら、カボチャのヤツ買いにきたんれす!柿ピは?」
「…チーズケーキ」
「はい、パンプキンムースと、ベイクドチーズケーキですね?……あ、骸さんは?」
「さっきまで一緒にいたんれすけど……」
「そっか」

はツナたちに「先に会計やってもいい?」と聞いた。
否定も出来るわけがなく(黒曜組が恐ろしいのとが言った事により)
ツナたちは端に少し詰めた。





*





「んじゃーな!」
「また……来る……」





そう言うと、二人は去っていった。
ケーキは勿論、千種の手にあった。

「さて……」

がツナたちの注文を聞こうとしたときだった。

ちゃん、今日はもう上がっていいよ!」

店長らしき人の声が奥から響いた。

「あ、ちょっと待って下さいこの会計済ませまーす!」

首を後ろに向けて声を出していたは、ツナたちにへにゃりと笑いかけた。





「決まった?」





ツナたちはまた、惚けそうになった。

*

「にしても……今日はいろんなヤツに合いましたね十代目」
「うん……」
「だなー」

そう話しながらあるくツナの手には、真っ白な箱があった。
その時、ツナは前方に見慣れた顔を見つけた。

さあ、と顔から血の気が引く。










「ろ、六道骸……!」
「おや、ボンゴレ」










骸はあいかわらずクフフ、と笑うと、ツナの持っていた箱に目をうつした。

の店のですか……甘いですね」
「な、何がだよ!」

獄寺が食いつくと、骸は目を伏せた。

「僕は毎日買っていますし……それに」










「骸さーん!」










先ほどまで自分たちの名前を呼んでいた声がして、三人組は肩を跳ねらせた。
振り向けば、手を振りながらこちらへやってくる





!」





「ええええ!?」

骸は少し頬を染めてうれしそうにすると、に駆け寄った。

「あ、ツナくんたち」

はひらひらと手を振ると、骸のほうに顔を移した。

「今日お店来るって聞いてたから」
「クフフ……こっちの方が驚くでしょう?」

はへへっと笑った。





「明日の十時半でいいんだよね?」
「ええ、いいですよ、明日の十時半に動物園の前です」





骸はちらりと三人組を見ながら、見せ付けるようにそう言った。
ツナたちが呆然としているのを見て優越したように笑うと、骸はの両手を自分の手で包み込んだ。

「そうだ、最近は物騒ですから、一緒に帰りましょう」
「え、いいのかな……?」

ツナたちは後ろで必死に頭を振っていた。
しかしは気付かない。
骸は微笑んだ。





「ええ」





その返事に、は少しうれしそうにすると、骸と共に歩き始めた。
それから、「ツナくんたち、ばいばい!」と3人組に振り返りながら手を振った。





残された3人が、ぽかんとしながら見たものは、の隣にいる骸の勝ち誇った顔だった。





『だから、甘いというんです』

Sweet!
(先手必勝!)