「おはよ、山本」
「おはよ、」
今日は町内運動会である。
*
澄み切るような青空に、早くも熱さが少しばかり充満している。
この町内運動会、参加は自由で、赤、青、黄の信号三チームに区切られている。
「山本は青組だよね」
「おう!は赤組か?」
「うん」
互いに鉢巻を指さしながら、くすくすと笑った。
その時だった。声が響いたのは。
「十代目ぇええええ!がんばってください!」
「ちょっ、獄寺くん!」
「あ、沢田だ」
「だな〜」
山本とは、顔を見合わせてから二人の元へと走った。
「おはよ、沢田!あ、黄色なんだね…」
「お、おはよ!ちょっとチビ達の付き添いも兼ねてね……」
「てか、何してるの?獄寺、見たところ私と同じチームなんだけど…」
獄寺の腕には、赤い鉢巻が巻かれている。
「うっせー!そんなの関係あるか!」
「何しに来たのー!?」
「ははは」
「はははじゃないよ山本、沢田本気で困ってるから」
はぽんぽんとツナの肩を叩いた。
ツナはの優しさに少しだけ泣きそうになった。
「およ?」
「ガハハハハ!」
「〜!」
がふと下を見ると、ランボとイーピンがぐるぐると追いかけっこをしていた。
手には黄色の鉢巻。
は微笑ましくなって、しゃがみこんだ。ランボとイーピンはきょとんとして、一時停止する。
「二人とも、鉢巻、結んであげよう」
「〜?〜!」
「いやいや、いいって」
イーピンがお礼を言ったということに感づいて、は手を振った。
しかしランボが、の体操服を握り、駄々をこね始めた。
「〜!ランボさんが先〜!」
「ちょ、ちょっと待って…イーピンちゃんが先なんだけど…」
「…うっ、うっ…の馬鹿〜!」
「ええええ!?」
ランボは泣きじゃくって十年後バズーカを取り出すと、自分に向けて放った。
もくもく、と白い煙がはれた頃には。
「えーと…誰?」
「さん!」
「おわあああ!」
「ちょ、大人ランボ!」
「テメー何してやがる!」
「あれ、あの人いたか?」
が大人ランボに抱きしめられていた。
「が、外国の人だもんね…凄いスキンシップ……」
「(違うと思うー!)」
*
パン、と渇いた音が空に向けて発された。
「(て、皆早ッ!)」
やっぱ運動不足だったかな、とは自分を恨んだ。
200メートル走だが、周りの女子が意外と早い。
その時だった。の後ろから、声が響いたのは。
「やぁ、」
「って、その声は雲雀先輩……っ!」
息が途切れながらも、は返事を返した。
の後ろで雲雀が走っているらしい。なぜなら、観客の顔が青褪め、
こちらを見ているからである。
「ワォ、色っぽいけど、その話は後にしよう。
とりあえず、一位を取らなかったら……」
「取らなかったら何ですかあああああああ!?てか、色っぽくないですううう!」
は恐怖のあまり、絶叫しながら目に涙を浮かばせて全力疾走した。
一位だった。
「ちっ」
「な、なんで舌打ちするんですか…」
*
お昼をまたぎ、午後の部。
「ハルちゃん、仮装レース出るんだ…?」
「はいっ!」
くぐもった声がナマハゲの下から聞こえて、は少しばかり笑ってしまった。
笑いながら、ふと後ろを見渡すと、視界の下の方に、見覚えのある茶色を見つけた。
「あ、フゥ太くん」
「!こんにちは、姉!」
「こんにちはー。フゥ太くんも、なんか競技出るの?」
「うん、ハル姉の次のパン食い競争に出るんだ!」
「(昼食後なのにパン食い競争って…大丈夫なんだろうか)頑張ってね」
「うん!」
こっくり頷いたフゥ太に、は頬を緩めた。
*
はむ、と包装されたパンを咥えて、フゥ太はテープを切った。
さすが、マフィアから逃げていただけはある。
「すごーい、フゥ太くん!」
「えへへ!」
チョコパンの袋を片手に、のほうへとやってきたフゥ太は、頭を撫でられると、うれしそうに目を細めた。
『バトンリレーの選手は、集合してくださーい!』
「あ。行かないと」
「頑張ってね!」
「(う…)うん、頑張る」
はそこまで勝てる自信が無かった。アンカーでもあるため、余計にプレッシャーがかかる。
男女混合でなかったのが唯一の救いだ。
しかし、うれしそうにはしゃぐフゥ太を見て、は、「少しがんばろ」と呟いた。
*
バトンを貰うときは、どうしてこんなにどきどきするのか。
そう考えながら、は落ち着かないように足踏みをした。
「(ああ、もう来た!)」
しかし、幸いながら、赤が一番だった。
はバトンを受け取ると、走った。
すぐに青と黄も追いかけてくる。
「(いやああああああ!こないでこないでええ!)」
の願いも虚しく、一人がのいる位置にやってきた。
は、足が縺れそうだった。ぶつかりそうで、恐かった。
「姉!頑張ってー!」
「ふ、(フゥ太くん、だ…!)」
息が苦しくなる中、フゥ太の叫ぶ声が聞こえた。
はバトンを握り締めた。
あと、少し。
*
「あぁああ!!」
はどた、とゴール地点で膝を付いた。
しかし、テープはのおかげで切れていた。
一位だったのだ。
息苦しそうにするを見て、フゥ太が駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫、姉!」
「う、ん…へへ、フゥ太くん、のおかげ」
フゥ太は少しうれしそうにすると、手にもっていたものを差し出した。
「はい!」
「…?…これ、さっきの、パン……だよね」
「うん!だって、姉、頑張ったから!」
「でも…」
フゥ太は、はにかむように笑った。
「だって、姉のために取ったから!姉、実はチョコ、好きでしょ」
君の為の勝利!
「は」「は?」「(恥ずかしい…!うれしいけど…ッ!)」