「先生は、十年後、どうしたいか、とか、考えた事ありますか?」
「何、突然」
いえ、気になったもので、と小さく笑う骸。
さて、俺はといえば、質問をどう返そうか考えていた。
「…十年前、だったら、教師になりたい、とか思ってたけど?」
そろーっとはぐらかす。
しかし、キッパリと切られた。
「十年後です」
「十年後…十年後ねぇ」
35か…リアルな数字だな。
骸の肩を見つめて、思案する。
「俺は…今のままでいいや」
骸は不思議そうに、問い掛ける。
「十年もしたら、学校変わってますよ?」
「うん、だからさいつも、ちゃんと思い出、作っときたいなぁ、と思って」
過ごしてるよ、と結んだ。
骸はそうですか、と呟くと、目線を窓の外の空に移した。
穏やかな昼下がり。
飛行機雲が、曲線を作っていた。
…あ。
「それはそうと、骸は十年後どうしたいんだ?」
「クフフ、進路の話ですか?」
……いやいやいや。
「いや、もっと夢見ろよ」
「夢、ですか……」
骸は顎に手を当てて思案する。
こういう、陳腐な動作でも似合うのは、顔が良いからか。
……くそ、現代っ子め!羨ましいな!
「僕は、」
大人になりたくありませんね、と骸は呟いた。
…。
「え、留年宣言?」
キッ、と骸の目がこちらを見る。
「違います!」
「…ですよねー」
ふざけたら、ぽかぽかと軽く叩かれた。
一通り叩き終えたのか、骸はふう、と息を吐く。
「…先生と同じです」
「ん?」
「先生と一緒にいる、この時間が楽しい。だから、大人にならず、ずっと先生の生徒でいたい」
「…」
えーと。
「泣いていい?」
「何故です?」
「教育者としてこれほど喜ばしい事が?」
そう言って目を押さえるフリをしたら、
骸は小さく笑った。
……ていうか、質問結局はぐらかされたな。
「なぁ、結局、十年後、どうしたい?」
「…そうですね、好きな人と、繋がっていたいと思います」
「おー、最近流行りのオトメンか!」
「キモチワルイですね、違います。流行ってませんし」
「ひどっ」
…俺は笑いながら、好きな人か、と呟いた。
「今は、お前等が好きかな」
「!」
Honey Honey
「……骸ー?(そっぽ向いちゃってどうした)」「馬鹿ですね先生…!」「ハァ!?」