ずっと前、ロマーノに昼食に誘われた時。





出されたのは、チーズたっぷり高カロリーのピッツァだった。
まさか、デート(仮)にこんなもんださねえだろと思っていたら、「食べないのか?」と聞かれた。





あの日食べたピッツァは、とっても美味しかった筈だけど、心の底で燻る何かが、
チーズの味しか思い出させてくれない。





   





その頃からだ。
ロマーノが私を女の子としてみていないという事に気が付いたのは。
……や、本当は既に気付いていたと思う。でも、それでもいいと思っていた。





他の女の子に比べれば、少し華の無い格好も。
いつも簡単に纏めてしまう髪も。





別にそれは私だから、と割り切っていた。

でも、今回のことで、これでは駄目だと思った。
もうずっと一緒にいるから、意識を変えさせるのは難しいかもしれない。

でも、私は、変わらなきゃ。
気付いて、気付いて、って思いながら。





……実際、面倒臭いけど。





「食べないのか?」
「ああ、うん……





さすがスペインの子分といったところだろうか。





……なんでこいつ私の乙女心とか努力その他諸々バッキバキにすんの?





今日の私は一味違う。
そう断言できるほどに、私は気合を入れて早起きした。
だって普段こんなことしないし。





服は明るい色で統一して。
靴も、数回しか履いてないのを引っ張り出して。もちろん、服に合わせたやつ。
髪も、ちょっと手間をかけて。





「うん、うめーな」
「……」





もぐもぐもぐもぐピッツァ食いやがって。
コイツ、ぜってえ空気読めてねぇ。世辞でもいいから一言言えよ。





スペインに感化されたか。
彼女に振られても原因がわからないタイプだ絶対。

「(何というフラグクラッシャー……)」

そう思いながら、がじがじとピッツァをかじる。
うう……うめえんだよピッツァ……でもカロリーが半端ないんだよ……!





多分コイツ、他の女の子にちょっかいかけるときは、オシャレなパスタの店とか行ってるんだぜ。
だって弟くんがそうだもん。
ていうか、ロマーノの弟くんと一緒にご飯食べた事がある。ロマーノと三人で。





そしたら、無茶苦茶オシャレなお店でむしろちょっと緊張した。
ほとんどテーブルクロスの白しか覚えてない。
でもあの野菜パスタ、すっごい美味しかったな。





「(……あかん、腹立ってきた)」





コイツは何故鈍い、というか、私だって一応女の子だからそこ考慮しろよ。
……え、もしかして男だと思ってるのか。





や、それは無いな
「?」





悲しみと怒り、その他色んな感情を舌に乗っけて、
ピッツァと一緒に嚥下した。











……最近、が可愛い。

いや、妹的なあれじゃなくて、なんか。なんか。普通に可愛い、みたいな。





上手く表現できず、めんどくせーなーと思いつつ頭を掻く。
それからすぐに、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。





それから数秒固まる。





「(へ、変じゃないよな……?)」





服を軽く確認する。
大丈夫だ、大丈夫だ、と思いつつ深呼吸する。

なんだよ、ビックリさせやがって、このやろー。

誰に当たるでもなく、心の中でそう呟く。





べ、別にと会うからとか、そんなんじゃないぞ。そんなんじゃ。
ただ、もしも逆ナンされたときに変な格好だと駄目だかr「くるっくー」





「ちがっ、ばっ、笑うんじゃねーよこのやろー!





窓の向こうで、俺を嘲笑う鳩に向かって怒鳴る。
く、くそー!そんなふうに軽やかに飛びやがって!こんちくしょー!





「……あっ」





早くしないと、が待ってるかもしれねー。
俺は財布を引っ手繰ると、すぐに部屋を飛び出した。





   





「や、それはないな」
「?」





が何かを呟いた。
それはない……?何がだ?

不思議に思いつつも、ピッツァを咀嚼するのはやめない。
目線を様々なところに移しながら、最後はへと行き着く。





……やっぱり、最近は変わった気がする。
何が変わったかは分からないが、変化している。





飲み込んで一息ついてから、に問いかけた。





「なあ
「え、あ、何」




が丁度口にピッツァを運ぼうとしていたところだったから、
返事は可笑しな具合になる。
少し申し訳ないと思いつつも(俺だってそれくらい思う、言わねーけどな)、質問を続ける。

……何を問いかけようか。正直考えていなかった。





「……俺の格好、変か?」
は?





が眉を顰め、訝しげな顔をする。
な、なんだよこのやろー……そんな怖い顔すんなよちくしょう……。





「い、いいから答えてみろよ」





そういうと、はじろじろと俺を見つめる。
……少しだけ視線が、ちくちくする。

「別に、変じゃないけど……。普通」
「あ、だよなー……だよな!普通だろ?」
何?自慢?
あ、いや……あ、そういえば、お前、の格好も可愛いな!」
「え?」





は何を言われたのか分からない、とでも言いたげに目を丸めた。
それから、え、服……だよね、と呟きつつ、俺の方を期待を込めた目で見やる。





服のことだぞ?」
「あ、ですよねー……




そう言った後、は少し頬を染めながら、目線を下に落とした。
抑制できないのか、口元が少し緩んでいる。

……?そういえば、少しいつもより唇がつやつやしてるような……何か付けてんのか?





「……





頭の中で、クエスチョンマークが大量生産される。

やっぱり、何か違う。
じゃない、みたいな。
……まさか、偽物……?





「……や、無いぞそれは
「?」





俺は頭を振り、空になった皿へ、そう言葉を投げかけたのだった。





(だって、そんな””が、嫌いじゃない)