ずっと前、ロマーノに昼食に誘われた時。
出されたのは、チーズたっぷり高カロリーのピッツァだった。
まさか、デート(仮)にこんなもんださねえだろと思っていたら、「食べないのか?」と聞かれた。
あの日食べたピッツァは、とっても美味しかった筈だけど、心の底で燻る何かが、
チーズの味しか思い出させてくれない。
★
その頃からだ。
ロマーノが私を女の子としてみていないという事に気が付いたのは。
……や、本当は既に気付いていたと思う。でも、それでもいいと思っていた。
他の女の子に比べれば、少し華の無い格好も。
いつも簡単に纏めてしまう髪も。
別にそれは私だから、と割り切っていた。
でも、今回のことで、これでは駄目だと思った。
もうずっと一緒にいるから、意識を変えさせるのは難しいかもしれない。
でも、私は、変わらなきゃ。
気付いて、気付いて、って思いながら。
……実際、面倒臭いけど。
「食べないのか?」
「ああ、うん……」
さすがスペインの子分といったところだろうか。
……なんでこいつ私の乙女心とか努力その他諸々バッキバキにすんの?
今日の私は一味違う。
そう断言できるほどに、私は気合を入れて早起きした。
だって普段こんなことしないし。
服は明るい色で統一して。
靴も、数回しか履いてないのを引っ張り出して。もちろん、服に合わせたやつ。
髪も、ちょっと手間をかけて。
「うん、うめーな」
「……」
もぐもぐもぐもぐピッツァ食いやがって。
コイツ、ぜってえ空気読めてねぇ。世辞でもいいから一言言えよ。
スペインに感化されたか。
彼女に振られても原因がわからないタイプだ絶対。
「(何というフラグクラッシャー……)」
そう思いながら、がじがじとピッツァをかじる。
うう……うめえんだよピッツァ……でもカロリーが半端ないんだよ……!
多分コイツ、他の女の子にちょっかいかけるときは、オシャレなパスタの店とか行ってるんだぜ。
だって弟くんがそうだもん。
ていうか、ロマーノの弟くんと一緒にご飯食べた事がある。ロマーノと三人で。
そしたら、無茶苦茶オシャレなお店でむしろちょっと緊張した。
ほとんどテーブルクロスの白しか覚えてない。
でもあの野菜パスタ、すっごい美味しかったな。
「(……あかん、腹立ってきた)」
コイツは何故鈍い、というか、私だって一応女の子だからそこ考慮しろよ。
……え、もしかして男だと思ってるのか。
「や、それは無いな」
「?」
悲しみと怒り、その他色んな感情を舌に乗っけて、
ピッツァと一緒に嚥下した。
★
……最近、が可愛い。
いや、妹的なあれじゃなくて、なんか。なんか。普通に可愛い、みたいな。
上手く表現できず、めんどくせーなーと思いつつ頭を掻く。
それからすぐに、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
それから数秒固まる。
「(へ、変じゃないよな……?)」
服を軽く確認する。
大丈夫だ、大丈夫だ、と思いつつ深呼吸する。
なんだよ、ビックリさせやがって、このやろー。
誰に当たるでもなく、心の中でそう呟く。
べ、別にと会うからとか、そんなんじゃないぞ。そんなんじゃ。
ただ、もしも逆ナンされたときに変な格好だと駄目だかr「くるっくー」
「ちがっ、ばっ、笑うんじゃねーよこのやろー!」
窓の向こうで、俺を嘲笑う鳩に向かって怒鳴る。
く、くそー!そんなふうに軽やかに飛びやがって!こんちくしょー!
「……あっ」
早くしないと、が待ってるかもしれねー。
俺は財布を引っ手繰ると、すぐに部屋を飛び出した。
★
「や、それはないな」
「?」
が何かを呟いた。
それはない……?何がだ?
不思議に思いつつも、ピッツァを咀嚼するのはやめない。
目線を様々なところに移しながら、最後はへと行き着く。
……やっぱり、最近は変わった気がする。
何が変わったかは分からないが、変化している。
飲み込んで一息ついてから、に問いかけた。
「なあ」
「え、あ、何」
が丁度口にピッツァを運ぼうとしていたところだったから、
返事は可笑しな具合になる。
少し申し訳ないと思いつつも(俺だってそれくらい思う、言わねーけどな)、質問を続ける。
……何を問いかけようか。正直考えていなかった。
「……俺の格好、変か?」
「は?」
が眉を顰め、訝しげな顔をする。
な、なんだよこのやろー……そんな怖い顔すんなよちくしょう……。
「い、いいから答えてみろよ」
そういうと、はじろじろと俺を見つめる。
……少しだけ視線が、ちくちくする。
「別に、変じゃないけど……。普通」
「あ、だよなー……だよな!普通だろ?」
「何?自慢?」
「あ、いや……あ、そういえば、お前、の格好も可愛いな!」
「え?」
は何を言われたのか分からない、とでも言いたげに目を丸めた。
それから、え、服……だよね、と呟きつつ、俺の方を期待を込めた目で見やる。
「?服のことだぞ?」
「あ、ですよねー……」
そう言った後、は少し頬を染めながら、目線を下に落とした。
抑制できないのか、口元が少し緩んでいる。
……?そういえば、少しいつもより唇がつやつやしてるような……何か付けてんのか?
「……?」
頭の中で、クエスチョンマークが大量生産される。
やっぱり、何か違う。
じゃない、みたいな。
……まさか、偽物……?
「……や、無いぞそれは」
「?」
俺は頭を振り、空になった皿へ、そう言葉を投げかけたのだった。
(だって、そんな””が、嫌いじゃない)
交錯ピッツァ