「失礼、します…」
から、と情けない音を立てていた職員室の戸は、
梅雨の湿気によって少し重い気がした。
扉の近くの机に、凪は近寄る。
「先生…これ」
「あら、ありがとう…ちょっと湿ってるわね」
「そう、ですね」
凪は担任に厚い冊子を渡す。
それを少し太い指が受け取る。
「もう梅雨の季節だし…そう言えばねぇこの間私の従妹が結婚したのよ」
「…」
そっか、ジューンブライド。
凪は担任の話を聞き流しながら、そう思っていた。
この先生はよく授業とは関係ない話をはじめる。
別に嫌ではない。寧ろクラスメイトだって授業がつぶれて喜んでいたりもする。
「せんせーそろそろ凪開放してやったらどうですー?」
いつもより少し気だるそうな声がきこえて、びくり、と肩を揺らす凪。
「あら、先生」
「先生…」
「先生話始まっちゃうと長くなっちゃうでしょ」
「しつれいねぇ」
笑いあいながら話しているあたり二人とも仲が良いらしい。
凪はそれをぼうっと見つめる。
時折話し声から「紫陽花」だの「ごみ」だのと聞こえるあたり、きっと校庭の話だ。
話しながら、は自分の机から薄いプリントを取る。
「っし、戻んなきゃ、待ってる生徒いるし」
じゃあね、凪、と言っては職員室を出た。
少ししてから、扉のほうを見つめていた先生が凪のほうを見る。
「…先生ってかっこいいわよねぇ」
「…そう、ですね」
先生がうっとりと呟いたのを凪は少し笑いながら肯定するのだった。
紫陽花を髪に挿して
「(ジューンブライド…っていい…なぁ…)」