ふと、瞼が重くなった気がして瞳を閉じて、意識しながらゆっくりと開ける。





ぐちゃり、とした色が消えて、
目の前に薄い灰色をバックに、蛍光の様な白、灰色、明るい茶色が見える。

雨が降っている所為か虚無感が何処かにあった。
目の前に信頼の置ける二人が居て大きな音や小さな音を立てていても其れが只の音にしか聞こえない。

穴が開いた、とかそんな寂しいモノというよりも
長くて細いひょろりとした棒が、痛み無く胸の中心にぽっかり刺さっている様だった。





手を伸ばせども、目の前もあの人は気付かない(当たり、前だろう)。
態とらしく手で弧を描く。空気を掴むようにゆっくりと(そうして、悲しい気分へと自分から入り込んでいく)。
ゆらり、ゆらりと揺れる明るい茶色が、
余計に虚しい気がした(自分から苦しみに入っていくものの、被虐趣味など一切ない)





ぎゅう、と唇を噛んで喉の突っかえる様な感覚を出発音にして、あの人の背中へと小走りで走っていく。





つん、と摘んだ白い布。

それに驚いたようにその人は肩を揺らす。
くるり、と振り返る一瞬の出来事が、映画の場面の様にゆっくりと動いたように見えた。

「…骸?どしたのお前」
「…何でも、無いですよ」
「…?」

クフフ、と笑うと先生は不思議そうな顔をした。

「驚かすつもりだったの?」
「いえ、別に」
「そう、んじゃ早く帰んな。犬達、さっき傘差しながら校門の所で待ってたぞ」
「はい」

口では返事をして、一向に離す気は無い。
「骸?」と先生が聞いてくるけれど(心地良いけれど)、
離す気にはなれない。

「先生」
「何だ?」





「さよなら」





まるで別れの言葉の様に言葉を落として、
そして手を離して、直ぐに後ろを向いて早歩きで歩く。
少ししてから先生の「じゃあな!気をつけて帰れよ!」という声が聞こえた。





雨が、全てを塗り潰してくれれば良いと思っていた。
己の体さえ(もしも良ければあの仲間たちも)見えれば良いと思っていた。

只、今はどうしようも無くあの明るい色を探している気がする。
闇に降る雨
其れが何で有ろうと、跳ね除ける気は無い。