「わぁ……」

頭上をすいすいと泳ぐ大きな魚に、凪は一瞬心を奪われた。
それからはっとして、その光景を忘れないように目線をきょろきょろと動かす。

「なーぎ」
「!…先生」

ふと笑うような声がして、凪は弾かれるように振り返った。
すいすい泳ぐ魚と、生徒をバックに、が立っていた。

「そんなに珍しい?」
「はい…初めて、見るから」
「へぇ。俺もこういうの初めて」
「…先生も?」
「おう」

手すりに少しもたれかかって話すの顔からすると、本当に初めてらしい。
凪は頬を緩めた。

しかし、それも一瞬でこわばったものとなる。

「先生!」

聞きなれない低い声がして、凪はびくりと肩を震わせた。
振り返るの肩越しに、藍色の跳ねた髪が見える。

「あれ?六道どしたの?」
「いえ…先生がいなかったので」
「別に自由行動なんだから」

少年だった。どうやら、同学年らしい。

凪は丸い目で、その様子をじっと見ていたが、ふいに骸と目が合い、びくりと肩を揺らした。
それから、すすす、との後ろに隠れた。

「…骸ー凪怖がってるじゃん」
「ぼ、僕の所為ですか!?」
「ご、ごめんなさい…」

凪はぽつんと呟いた。
は小さく笑うと、「こいつ六道骸な、骸」と凪に骸の名前を教えた。

「んで、こっちは凪」
「なんで名前だけなんですか……ええと、凪、さんでいいですか?」
「いえっ…凪、でいいです…」
「お見合いみたいだな」

そう言うと骸はぴきんと固まってから苦笑した。

「(凪とは気が合いそうではなかったのですが……どうやら、そんな事もなさそうですね)」

骸は、憎めない少女、凪に笑いかけた。
凪も、たどたどしく、つられて小さく笑った。
恋は盲目
「娘って所ですかね」「は?」