「あーあちー……っておわ!」
「へっへ〜!油断してるからだびょん!」
「大体先生が暑いといったからです慈善行為です」
「中本、俺もキレるぞ?」

生徒たちはまー元気元気。
一日目に調子の悪かった柿本も、今ははしゃぐ…というか顔色はいい(はしゃぐってキャラじゃないしな)。

そんななか、いつものゴーイングマイウェイコンビ(中本、犬)が水をかけてきた。
やめろ。

「眼鏡濡れただろ…」
「先生、それ本物ですか?」
「当たり前だろ」

中本の問いに、眼鏡を拭きながら答えた。

黒フレームの、教師になったときから使っている眼鏡。

ー眼鏡外さないと変な痕つきまふよー
柿ピだって今日は外して、」
「先生付けような城島」

にっこり笑って「城島」を強調しながら犬の頭を掴むと「ふぁい…」となんとも情けない返事が返ってきた。
全く、もう。















「えー例のごとく振り回さないように!以上!」

そんないい加減な注意を全クラスにしてから五分。

「おまっ、まわすな!あぶねーだろうが!」
「へっへー……いだっ!」
「…」

早速、シュウシュウ、ゴウゴウと音を立てて煙を発する赤色の光を振り回していた犬を、
柿本がチョップした。

「あ、あんがとな…」
「別に…」

某女優を思い出してしまった俺は悪くない。
きょろ、と辺りを見回すと、一人騒ぎから外れてぽつんと背を向けている凪を発見した。

ゆっくり、それでも気配は消さないように砂の音をたてながら凪に近づくと、
凪は後ろを振り向いた。

「…先生」
「よー」

凪の手にはぱちんぱちんと小さな音を出す線香花火。
ビードロのような音が、気持ちいい。

「あー…」
「?」

確かに、あの騒ぎの中じゃすぐに玉が落ちそうだ。

もう一度辺りを見回して、静かそうなヤツを探す。
あ。

「骸ー」
「!な、なんですか先生」
「線香花火やんね?いい?凪」

ひらひらと、細い線香花火を摘んで揺らす。

「あ、はい……」

凪は驚きながらも、少し嬉しそうにこっくりと首を振った。
骸は砂に沈むようにこちらに歩いてくる。

「線香花火ですか?」
「そうそう、はいどうぞ」

あ、そうだ火。

騒いでいる中心から、蝋燭を一本、あと水の入ったバケツをパクってきて、蝋燭は砂に埋めるようにして立てた。

じゅ、と音を立ててマッチをすり、火をつけた。
ぽう、とした灯りが、危なっかしく揺れる。

「ん」
「あ、どうも」

骸に線香花火を渡す。

「あ」

凪の線香花火の玉が落ちた。
凪にも線香花火を渡す。

骸は既に火をつけていた。
それに習うようにして、俺も火をつける。
凪も、あたふたしながら火をつけた。





丸くて蕩けそうな丸はぱちりぱちりと儚い糸を散らした。
小さな夕焼け太陽
(線香花火っていいよな)