柿本に殴られかけた後も、一日はいつも通りに流れていった。
帰りの挨拶を済ませ、ぼうっとしながら教卓を見つめる。





――あの後、柿本に睨まれるたびに、全身の筋肉が引き攣った。
それほど恐怖だっただろうか、と自分でも疑問に思ってしまう。





「……
「!……っと、なんだ、犬か」
「……」





動揺を隠すように笑ってみたが、あまり効果は無いようだ。
いつもは突き抜けて笑っている犬が、少し不満そうな顔で俺を見つめる。

俺はすぐにでもここを抜け出したかった。
それでも、口は勝手に動いた。





「何か、用か?」
「……話が、あるんれす」
「……何だ?」





そう聞き返すと、犬は戸惑ったように周りを見渡した。
これだけ真剣でも、そういう分かりやすい仕草は犬のままだった。少し安心して、肩の力を抜く。





「皆が帰ってから……でいいか?」
「!」





犬はこくこくと頷く。

了承を得て、俺は周りを見渡す。
今日の日直は……と。





「中本ー」
「あいー?」
「お前今日日直だよな?掃除やらんでいいぞ、この後教室使うから」
「えっ、なんかラッキー……家帰って銀魂見よ」
「おーおー」





無表情に笑みを浮かべた中本に苦笑し、じゃあな、と手を軽く振る。





振り返れば、犬がいて。





「……」





わけもわからず、苦笑いした。





C-hildren
俺もまだまだ、余裕が無い。