「骸さんを助けられんの、うざいけど、だけだから」
「…」
椅子をひいて、向かいに座るよう促した後、犬が発した言葉はそれだった。
拗ねたように、目線は床の木目を注視している。
俺は、その言葉の意味が分からなかった。
なんとなく気まずくて、当り障りの無いことを口にしてしまう。
「……なあ。なんで、骸は休んでるんだ?」
犬は口を噤んだままだった。
けれど、視線だけは期待するように、こちらを見ていた。
「俺は、……あんまし頭よくないし、上手くいえない。けど、なんで休んでるかは、分かってるつもりだびょん」
「……」
「だから、あの人を助けて欲しい」
犬は続ける。
前、お前は俺に、親のことを何も聞かなかった。
俺は、それが嬉しかった。というより、そんなことがあっても、次に会った時、変わらず接していてくれた態度が。
そう話し、犬は顔を上げた。
「……骸さんがどこにいるか、俺は知ってる。だから」
会ってほしい。
そう言われて、俺は少しだけ戸惑った。
眼鏡のブリッジを、静かに上げる。
「俺は……なんていうか、お前が言うほど凄くないよ。一般人だし、器もそれほどでかいわけじゃないし」
「……相手を受け入れる、とかじゃないんだびょん。お前の場合」
わかんないけど、と少し照れくさそうに……それから、寂しそうに笑った犬に、俺は腹を決めた。
可能性
俺は自分の可能性を、過信してみなきゃならないようだ。