雨ふってんなぁ…土砂降りじゃん。
まぁ、いいか暫く帰んないし。

先生さよーならー」
「おう、さよなら!」

まだ入学したてで特に不良はいない。
そう思ってにやにや笑いながら俺は玄関へと向かった。
生徒残ってたら帰さな。

そう思って階段を下りると、数日前にも見た小さな背中を発見。

「あ、凪」
「あ…、先生」
「名前覚えたんだ」
「…っはい」

凪が自分の名前を知っていた事に驚いてそう言うと
凪は少し顔を赤らめながら下を向いた。

「俺も凪の名字分かったよー。でもめんどいから名前呼びでいいですか?」
「は、い、大丈夫、です」
「んで、どうしたの?もう下校時間だよ」

前にもこんなやり取りしたなぁ、と思いながらも
雨の音をバックに凪の口が動くのを待つ。

「あ、の…傘、貸しちゃって」
「え、貸したの?」
「…う」
「馬鹿」

こつんと額に指を当てるとしゅん、と下を向いてしまった。

「ま、しょうがないわな。というかそんなホイホイかさんでも。
一緒に入ればよかったのに」
「あ…」
「しゃーない、ちょっと待って」

そう言って職員室の前へ少し小走りして向かっていった。

「あったあった」

俺の濃紺の傘。この前おいてったのだけど今日は車だし。
凪待ってるし、と思って少し急いで玄関へ向かうとちょこんとまっている凪と目が合う。

「ほれ、やるよ」
「?」
「これ、使いな。俺どうせ車だし」
「え…」
「ほれ、ちゃっちゃと帰んなさい!」

凪の背中を押すと、おずおずと凪は傘を開く。
そして少し歩いて、こちらをくるりと向くとお辞儀をして少し早足で校門へと向かった。
晴れ時計
そういやあ、梅雨か。あれ?まだかな。