「そういやぁ、今日母の日か?」
「んあ?」

授業中居眠りをしていた所為で居残りをさせられている犬の前に立つは、
ふと、そう呟いた。

「今日10日だろ?うん、そうだな」
「…」
「犬!今日早めに帰らせてやるよ!母ちゃんに肩たたきでもしてやれ!」

「城島」から「犬」に名前が変わってからもう少しはたっていた。
ぽんぽん、とは犬の肩を叩く。





パシ!





「…犬?」
「…うっせー!お前なんかに呼び捨てされる筋合い無いびょん!」

手をはじかれたは、ぽかんとした顔で犬を見た。
犬は威嚇するように眉間に皺を寄せている。

「…悪かった。早く帰れ。危ないから」

危ないから、の部分はどこか強かった。

「…」
「…どしたの?」

は弱々しく笑いながら、問い掛ける。
犬の顔は、怒りながらも困惑していた。

「何で、何も」
「?」
「聞かない、んれすね」

母親と仲が悪いのか、とか。

そう、つっかえるようにぽつりと付け加えた犬には苦笑した。

「仲が悪いくらいで、あんな反応はしないかなって、思っただけ」

な、とが首を傾げれば犬は「うがーっ」と唸りながら何かを振り払うように頭を振って、
耐え切れないように、歩き出そうとしたの隣に並ぶ。

「…悪かったれす」
「…俺も」

渋い顔をする犬には目線を廊下へと向けてそして自分の足を見た。
この件はもう一切無しな!とは笑う。

「当たり前びょん!」

そう言って犬は笑う。
一瞬、の姿は、学生のように見えた。
何も知らない
「(でも、此処でなら知ってる。例え、嘘だったとしても、それが本当だから)」