外をぼうっと眺めれば、雨が降っている。
道理で少し肌寒いわけだ。彼女− −は寝起きの頭でそうぼんやりと思った。

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今日は休日だ。
バイトも無かったし、ぼうっとしていられた。
ただ、雨なのでどこか気が滅入るような気がした。

裸足のまま床を歩けばぺたぺたと音がする。
ぼうっとした頭はふわふわとして暖かいが、どこか重い。

紅茶を飲みたいな、と思って市販のティーバックとポットを取り出してお湯を沸かす。
ただ、じぃ、とお湯が沸騰するのを待って見つめていたとき。





ピンポーン





驚いてビクリ、と肩を揺らす
眠気も一気に吹き飛んだ。

「(誰だ…?こんな朝から)」

そう思いながら廊下を歩いて、少しドアを開けて、
訪問者をちらりと見た。





そこには太陽に負けないような蜂蜜色があった。





「…ディーノ





「よっ」
「…ってディーノ…随分、びしょぬれだね」
「ああ、これな」

ははは、と苦笑する彼に少しかわいいと思ってしまった事は内緒にしよう。

「ロマさん達は?」
「えーと…実はちょっと抜け出してきてて」
「…ハァ。とにかく入りなよ、風邪引くよ」
「ああ、悪ィ」

ディーノを中に入れて、そこで待つように言うと
私は急いでタオルを持ってきた。

昨日晴れていたうちに干した、薄い水色のタオル。

「はい」
「お、サンキュー」
「いえいえ」

あがりなよ、と言って中を指差す。
ちょっと目を離すだけで危なっかしいので
ゆっくり後ろにいるのを確認しながら歩く。

「あ」
「?どうした
「お湯沸かしてたんだった」

リビングに入って、台所のほうを見れば、
白い湯気が見える。

椅子に座ろうとした体勢を戻し、立ち上がって
そちらへ向かった。

**********





「はい、よく冷ましてね」





どうせ彼なら熱い内に飲んで、舌を火傷でもするだろう、と考えそう言った。
自分も外の空気に当たって少し冷えた指先を、
マグカップを持って暖める。

「ふぅ…それで、どしたの?」
「?何が?」

本気で首をかしげている彼に小さい子みたいだなぁ、と思いながらも喋る。

「用件だよ、抜け出してくるまでの用件なんじゃないの?」
「あー…えっと、その、な」
「…何だ、違うのか」

んじゃあ別にいいや、と少し張っていた気を緩める。
何かあったのならそれこそ一大事…は大袈裟だが、
それなりに何かしなくてはならない。

しかし彼もそう気を張っていたわけではないし、
特に大した用件ではないだろう。

ディーノはきょとん、としてから、
「あ、ああ…まぁな」と言葉を濁す。

「じゃあ何?」
「え」
「…いやだったら言わなくても良いけどさ」
「あ、いや、言う言う!あの、その、な、笑うなよ?





、に会いたくて、だな
「(…照れるなぁ)」

どこかお見合いのような何ともいえないもどかしい雰囲気が漂う。
それが気まずくて、は外に目を向ける。

「あ」
な、なんだ!?
「わ、びっくりするじゃん、行き成り大きな声出さないでよねディーノ」
「わ、悪ィ…」
「外。雨やんでる」
「あ、本当だな」

外では雀がちゅんちゅんと鳴き、徐々に明るくなっている。

「ねぇ、ディーノ」
「ん?」





外。出ようか





そう言ったの顔は、どこか楽しそうだった。

**********





「んー…雨の匂いがする…」





ぽわん、と暖かい日が柔らかく出ていた。
後ろでずっこけそうになっているディーノを面白そうに見ながら、
蜂蜜色に目線を移す。
光があたって、きらきらしながら、透き通っていた。

じっと見つめていると、やっぱり転んだ。
思っていたとおりになったため、すこしキョトンとしてから、
口に手を当てて笑いを堪える。

「ぷっ、ディーノ…っくく…だいじょぶ?」
!笑ってんじゃねーか!」
「いや…よく何にも無いところで…っく…こけられる…なぁ…と」

あー駄目、笑い止まんない、というと唇を尖らせるディーノ。

「ったくよー…
あ、!」
「うわ!何?」










虹虹!










ディーノが指差す方向には、虹が出ていた。

「あ、ほんとだー虹なんて見るの久々だなぁ」
「だろー」

ぼんやりとしているが、はっきり見える。
水彩絵の具で滲ませたようなふわふわとしたものだった。

「あ、そうだ、ディーノそこ立ってみ」
「?」
「あー、そう、そこそこ」

はすこしにやにやと笑いながら、指差す。
の目線からは、虹の前にディーノが立っているように見える。

「…よし」
「?何がだ?」





プレゼント・オブ・ディーノ





「は?」
「いや後ろの虹リボンみたいだなーと思って」

両手の親指と人差し指で窓を作って、
そこを囲む。

はにやり、と笑いながら
ディーノに近寄って
ディーノと鼻と鼻がくっ付きそうな位置まで顔を近づける。










「あ、ちなみに受取人は私でいいですか?」











(へへ、オレには聞こえるけどな、がプレゼントをあけてる音)(そう?それはよかった)