触れる甘さ

 

霧に包まれた森の奥。
そこには、静かにある貴族の屋敷が聳え立っていた―――――
 
 
―――――――――筈だった。
 
 
 
 
「だぁーかーらーッ!肉焼くのに火炎放射器は要らねぇだろッ!?」
「芸術は爆発だぁー!!」
「頭だけにしとけえええぇええぇ!!!!!!!」
 
 
ぜぇはぁと息を切らして、唸りながら燕尾服の裾で鼻を押さえる。
 
・・・何、このカオスな匂い。
 
 
タルト生地の焼ける匂いと、焦げ・・・いや、炭?の匂いとが混ざり合ってとんでもない匂いが鼻を刺す。
 
 
・・・セバスチャン、俺さ、結構頑張って執事の資格取ったんだよね。
シェフって火炎放射器持って「芸術は爆発だー!」って叫べるようになればシェフになれるのか?全知全能の貴方なら何か知っている気がするよ・・・。
 
こめかみを押さえて、溜息を吐く。
 
 
「バルド、お前はレシピ見て作れ。セバスチャンに頼めば作ってくれるから、レシピ」
「はぁ!?シェフの俺がレシピを見て作るだと!?」
「プライド覗かせんな!お前がまともな料理をシエル様に差し出したところ見たことねぇんだが!!」
 
 
プライド云々の問題じゃないと思うんだよな、うん。
まともな料理作ってからほざけや。
 
 
 
「つか、そーゆーお前は料理作れんのかよ」
「あ?まぁ、どこかの無能なシェフよりはな」
 
 
半眼で見やりながら、オーブンへ近づく。
 
透明なガラスの向こうには、焼けたタルト生地。
そこから漏れる甘い香り。
 
うん、セバスチャンのよりはさすがに劣るけど、我ながら上手く焼けてる。
 
 
バルドがこちらに来て、一緒に覗き込む。
 
 
「まぁまぁだな」
「・・・うざいなぁ、お前」
 
オーブンに突っ込んでやろうか。
ミートパイにしてやる。
 
 
「・・・早く焼けないかなぁ、バル―――タルト生地」
「おいお前今なんて言おうとした?」
「・・・気のせいです」
「何がだ!てめぇ、白状しやがれ!!」
 
 
殴られそうになって、さっと避ける。
それでも追いかけられて逃げようとし、何かに躓き転びかける。
 
・・・やべ、放射器のホースだ。
 
 
「う、わっ」
 
 
 
 
どた。
 
 
 
 
 
「--------------------- ・・・馬鹿だろ、お前」
「うるせぇな、早くどけ」
 
今の状況は、転びかけたところをバルドに支えられ、そのまま重力に逆らえず一緒にコケたって状況。
・・・支えられてたら格好良かったのに。バルドだからなぁ・・・。
 
 
「バルド、」
 
 
 
・・・ありがと。
 
 
 
呟いて、さっさとバルドの上から退ける。
と、
 
 
「・・・お前何真っ赤になってんだよ、気持ち悪ィな」
「う、うるせぇ!」
 
 
 
首を傾げて馬鹿にする。
さて、そろそろ焼けたかなー。
 
 
 
触れる甘さ