朝。

それぞれ全く違う場所で寝ていたはずの二人の少年が目を覚ますと、
隣に、小柄な少女がいた。

黒髪で鋭い目をした少年は驚き、がばりと起き上がる。

すると、少女の右側から「雲雀君!?」と驚いているが押さえた声がする。
少年は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

「なんで六道が此処にいるのさ…」
「知りませんよ」

独特の髪形をした少年も同じように不機嫌に返す。

「…とりあえず誰だと思う?この子」
「さぁ…?僕は知りませんけど」

肩に付くくらいの黒髪に、寝ているときくらいははずしたらどうだと思う眼鏡。
そして白い肌の小柄な少女。

「……とりあえず起こしましょうかね」

少年はその少女の体を揺する。

と、
目がぱっちりと開き、ゆっくりと上半身を起こす。

その動作は余りにもしっかりしたロボットのようだった。

「…」
「「…」」

少女は無表情でじっと見つめた後、

「…誰…?」

と小さな声で呟く。

「こっちが聞きたいよ」
「まぁ落ち着いてください、雲雀君」
「落ち着いていられるわけ無いでしょ」

黒髪の少年はイライラと返す。

「…貴方たちは」
「?」
「何」
「…恐らく涼宮ハルヒにより異空間から呼び出された有機生命体」
「は?」
「あの、もっと僕たちに分かり易く言ってくれませんか」





「つまり異世界人」





「「…」」

空気が、シン…と静まり返る。

「ちょっと、冗談は嫌いだよ」
「…」
「本当」
「何処に証拠があるっていうんだい?」
「…言語では説明できない。
けれども私の記憶にも貴方たちの記憶にも
お互いの事は記憶されていない」

彼女は淡々と言葉を並べる。

「そしてこの空間に一部の小さな歪みが生じている。
外部の衝撃等では無く内部に突発的に出来たもの。
恐らく貴方たちがこの空間にやって来る為の道」
「…異空間、ですか」
「ちょっと、いい加「雲雀君」
「何」

思い切り少年は鋭い目線をもう一方の少年に向ける。

「あながち、嘘ではないかもしれませんよ」
「…本当」
「…」
「それに寝起きの人間がいきなりこんな話を突発的に作れませんよ」
「…私は人間では無い」
「?」





「この銀河を統括する情報統合思念体によってつくられた
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
「は?」
「あの、さっきから言ってるんですけど、もう少し分かり易く…」
「つまり、宇宙人」
「「!!」」

彼女はそのまま続ける。

「…涼宮ハルヒは無意識的に自分が望んでいる事を実現させる力がある。
「異世界人がきてほしい」と願った為に貴方たちは呼び出された」
「迷惑な話ですね」
「本当だよ。………咬み殺したい」

眉間に皺を寄せた少年は微かに殺気を漂わせながら、
ベッドから降りる。

と、そのとき少女が少年の服の端を掴む。
その顔は無表情だった。

「待って」
「…何、邪魔するの、君も咬み殺すよ」
「雲雀君、その”涼宮ハルヒ”の居場所とかわかるんですか」
「…」

彼女は無機質に言葉をつないでいく。

「この世界に戸籍も何も無い貴方たちが今外に出ると大変な事になる。
だから私が情報を改変する。でも貴方たちが涼宮ハルヒに遭遇すれば
元の空間に帰れる確率は一気に下がる」
「「……」」
「遭遇すると涼宮ハルヒは何らかの理由で無意識に貴方たちを深く巻き込む。
異世界人という事で。
そうなると涼宮ハルヒの記憶のリストから逃げる事が出来なくなる。
つまり彼女が貴方たちを覚えている間は帰ることが出来ない」
「でも、」
「例え表面上忘れていても本当に忘れているのかどうかは分からない」

彼女は、小さく何かを早口で呟く。

「……情報の改変は行った」
「…そう」
「…クフフ、後は、見つからないようにして、どこかで過ごすしか有りませんね」
「面倒くさいね」
「全くです」

彼女は小さく呟いた。

「…それなら、私の家にいればいい」
「…いいんですか?」
「私は構わない」

彼女は照れた様子も何も無かった。

「…じゃあ宜しくお願いします。六道、骸と言います」

少年―六道骸―は人の良さそうな笑みを浮かべて、手を差し出す。

「…雲雀…恭弥だよ」

黒髪の少年―雲雀恭弥―はそう言った後、ふいっと横を向く。

「……」

彼女は笑う事も無く、無表情で骸の手を握って、
自分の名前を告げたのだった。