「武ー雲雀君が構ってくれません」





私は幼馴染の武に相談する事にしました。
……嘘です、ヒマだから武とお話するのです。

「お?」

武が爽やかに返事をするより早く教室の扉が開いて
真っ黒なヤツがやってきました。

……あ。ゴキじゃ、ないですよ。
まあしつこさはゴキに匹敵する気もしますが。
……ゴキに失礼ですかね。

「ちょっと待ちなよなんでそいつに相談するの
だいたいなんで名前呼びなの」

うるさい上にノンストップです。こいつ本当に人間?
……こいつ人間だったらゴジラも人間ですね。

「うるさいな貴方は私のお父さんか何かですか、武、雲雀君が構ってくれません」
「何で本人いるのにそいつに相談するの!?嫌がらせ!?」
「はい」
「即答なのなー」
「黙れ草食動物」

武に暴言使わないでください雲雀この野郎。



「あいたたたたた雲雀君ひっぱるのやめてください」
「全く君は無防備なんだよ」

腕をぐいぐい引っ張る雲雀君。いや小鳥。
ぶっちゃけ痛いです。抜けちゃう。

「男は狼の皮をかぶった羊なんだよ」
「逆逆」
「あ、じゃない、羊の皮をかぶった狼なんだよ」

なんでしょう、かっこいいことを言った筈なのにこの切なさは。

「じゃあ雲雀君も狼ですね失礼します」

くる、と手が少し弱まっている間に逃げようとしました。
が、両手で片手を掴まれました。

「ちょちょちょっと待って違うよ僕は無害なリスだよ」
「何故リス?」
「君はリスが好きなんだろう?」

あれ。
ていうか貴方いっつも草食動物だのなんだの言ってるじゃないですか。
貴方肉食でしょう。

「何で知ってんですかストーカー?」
「違うよただちょっと草壁に資料を探らせたりつけさせたりしただけだよ」
「張ったおすぞ」
「お、押したおすなんて……大胆だね」
「殺しますね」
「ヤンデレだね」

キモッ。コイツキモッ。鳥肌立ってきました。

「大体さっきまでは僕に構って欲しいって言ってたくせになんだい君」
「それは口実で癒される武とお話したかっただけです」
「僕ちょっと殺る用事が出来た」
「やめてくださいね」

がいうなら……」と雲雀君はトンファーをしまいました。
一体どこに仕舞っているんでしょうか。謎です。
ていうか勝手に名前呼ばないでください。
大体何この会話。カップルみたいでしょうが。

「なんだか僕達恋人同士みたいだね」
「頭が沸きましたか」

寒気と吐き気が襲ってきました。
あ、そうだ。

「雲雀君、私もの凄くケーキが好きなんです。特にモンブラン」
「あ、もしもし草壁?至急一番おいしいモンブラン買ってきて。
……え、何言ってるの咬み殺すよ」

利用できるものはしないと。
ていうかこの人本当に私に惚れてるんですかね?
あの冗談もしかして冗談じゃなかったんですかね?
……まぁいいや、今はパシリになってもらおっと。





*

「うん、おいしいです」
「良かった、僕は君を食べたいよ」
「私は貴方を捻り潰したいです」
「ワォ、そんな乱暴したらつかえなくなっちゃうよ」
「死ね」

何故この人は常時頭が春なのでしょうか。
幸せな頭でよろしかったですね。

……にしてもモンブランおいしいです。
これ作ってくれた人、凄い人なんでしょうか。

……。

「雲雀君」
「なんだいハニー」
「やっぱり言うの止めますね」
「ちょっ、ごめん!……何?」

全く、悪ふざけも好い加減にして欲しいです。
私は、箱に入っていたもう一つのプラスチックのフォークで
モンブランをすくいました。
……ちょっともったいなかったかな。

「はい、どうぞ。折角、買ってもらったので」
「……いいのかい?」
「はい。ただし自分で持って食べてください」

フォークを渡せば、震えながらおずおずと食べる雲雀君。

「……なんで震えているんですか」
から貰ってしまったからね」
「気持ち悪い人ですね」

雲雀君に淹れてもらった紅茶を飲む。
マグカップ、というのがアレですが、美味しいので気になりません。





「……ねぇ、それ僕が使ったコップなんだよ」





バリン

「「……」」

……いけない、ついついマグカップを雲雀君の頭に投げ付けてしまいました。
さすがにコレは、怒るでしょうか。

紅茶と鮮血が混ざって素晴らしい事になってますし。
私は咬み殺されてしまうのでしょうか。短い人生でした。

頭を下げて、潔く衝撃を待っていると、頭の上に手のひらが振ってきました。

「別に……咬み殺さないよ?」
「……」
「かわいい照れ隠しじゃないか……










なんでしょうコイツ。










ぶっちゃけこの人ポジティブですよね。
よくよく考えたら、頭にのっているのは雲雀君の手だと気付いて
寒気がしてきました。

照れ隠しなわけが無いでしょう。むしろ嫌悪感丸出しなのですが。

「ああ、君の可愛さにはくらくらするよ」
「それ貧血だと思うんですけど直ちに病院行ったほうがいいのではないですか」
「心配してくれるんだねやっぱり君は最高のお嫁さんだね」
「誰が誰の嫁だ」










「勿論、僕にきまっぶふう!」










これが最強とうたわれた男、雲雀恭弥ですか。
全く、女子の右ストレートもろくにかわせないくせに。





「気持ち悪いですね……まだ鳥と結婚するほうがマシですよ」
「雲雀だろう、遠まわしな告白だね」
「違います」

ぶっとばしますよ。

「ていうか食べ終わったので帰らせていただきますね」
「待ちなよ、なにか御礼ないの?ピンク系な」
「奢ったくせにおこがましいですね懐のちっさい男は嫌いです」
「まさか、また今度も食べにきなよ」

何でしょうこの人。
本当扱いやすいですね。

そう思いながら私は応接室を出ました。
出たのですが……。





「何でついてくるんですか」
「彼女に悪い虫が付かないようにするのは彼氏の役目だよ」
「もはやお父さんじゃないですか」
「お父さん……それもいいね、お父様って呼んでごらん」
「断固拒否します」

ああ、まだ続くのでしょうか。


武ー、助けてください!