「なー姉貴、明後日客連れてきてええか?」
「ふあー?」

おせんべをくわえたままダラダラとテレビを見ていたら、突然畏まったようにクラウドがそう言ってきた。
少しふやけたおせんべをかじって咀嚼してから、「ええけど、誰つれてくるん」と聞いてみる。

「…ボスたち」
「…そらえらいこっちゃやな。何で?」

クラウドのいう「ボスたち」とは、かの有名なギアステーションにある「バトルサブウェイ」のサブウェイマスター、ノボリとクダリの双子のことである。本人たちに会った事はないが、弟の話でよく上がる2人なので、変なことを詳しく知っている。
そんな2人がやってくるとなれば驚きもあるわけで。聞き返してみると、クラウドは悲痛そうに口を開いた。

「うちのボスさんらは若いのに出世しはっとるやんか」
「せやな、クラウドくんとちゃってなあ」
「やかましい。…せやけどなんか、こう焦っとるちゅーか、気張りすぎやねんか? いっつもなんやちゃんとメシくっとんのかくっとらんのかわからん顔色やし、心配でかなん…」
「…かわいそうに。責任感感じてはるんやろな」
「おう」

その後も不器用ながらぶつぶつ言葉を続ける弟に、少しじーんとした。いい子だ。口は乱暴なときもあるが、人を気遣えるいい子なんだなあと思う。本人には絶対にいわないけど。
自分よりも年下の上司を気にかけるなんて、きっとボスさんたちもいい人に違いない。

「ええよ。連れてき」と言うと、クラウドの顔が明るいだ。「ありがとお!」と言ってザラメのおせんべをかじっている。

私もテレビに視線を戻したが、おっと、その前に用意について聞いておかねば。

「せや、ボスさんらは何たべはるのん? 灰皿いる? うちないで灰皿」
「えっとな…」



そうして約束の日がやってきた。

ドアが開く音がして、声はないがいつもよりにぎやかな音がする。
洗い物が多いので先に半分やってしまおうと思っていたが、ちょうどいいタイミングだ。冷たい水で冷えた手をエプロンでぬぐって、3人がリビングに来るのを待つ。廊下は狭いので、出迎えてもごちゃごちゃするだけだ。

「お邪魔いたします」
「お邪魔しまーす」
「狭い家ですけどどーぞ」
「どうぞー」

リビングに入ってきた2人を見て、私は思わずため息をもらした。

「(はー…なんやイケメンやな…)」

しかし、顔色は白っぽく、目の下にうっすらクマが見て取れて痛ましいかぎりだ。生気が若干薄く見える。

すまし汁、旬のものの天ぷら、コールスローサラダ、根菜の煮物、牡蠣ご飯、漬物、おひたし、きんぴら…量はそれほどだが、結構品目多めに作ってしまった。大丈夫だろうか。とてもほっそりした二人を見ていると不安になってくる。クラウド基準で考えるべきじゃなかった。まあ……余ったら明日にまわせばいいだけだ。

白いほうのボスさんと目があったので、「こんばんはあ。狭いとこでえらいすんません。クラウドの姉のです。コートおかけしますよ」と声をかけた。ボスさんはしばらく惚けていたが、あわてて「は、はい」と返事すると、重たいコートを手渡してくれた。黒いボスさんもコートを渡すと共に、「つまらないものですが」「あ、ええのに。ありがとうございます」と手土産を渡してくれた。おお、これは評判のバウムクーヘン。なんだか気を遣わせてしまったか。
それにしても、イケメンは声までかっこいい。

「(完璧やな)」

うーんと唸りながら、うちのクラウドもいい男だけど、とか姉馬鹿をかましてみる。まぁ顔は負けているが。
ええと、確か、白くてフレンドリーなのか「クダリ」さん。丁寧で黒いほうが「ノボリ」さんだ。色で覚えるより性格で覚えたほうがよさそうだ。

先に座ってて、とクラウドに言ってからキッチンに戻る。
キッチンのカウンター越しに立ち上がろうとしたボスを「まぁまぁ、座っといてください」と押し戻す弟が見える。あれはノボリさんだな。

お盆2つにお皿を載せて両手持ち。家に結構人を呼ぶことがあるので、お盆が多い。

全てを配膳してから、私もクラウドの横に腰掛ける。

「申し訳ないです、何もお手伝いせず…」
「いいえぇ。それより食べましょう」

そう言ってにっこり笑う。
ノボリさんの横のクダリさんは、すっかり料理に目が釘付けで、嬉しい限りだ。

「いただきます」



にぎやかではないが、和やかに歓談を楽しむ雰囲気の中、ノボリさんが「こうやって季節のものを楽しむのも、わたくしすっかり忘れておりました」とぽつりと呟いた。
ノボリさんのお箸には、春菊の天ぷらがある。

なんだかその言葉にほっとしてしまって、思わず「どんどん食べてください。鱈も今が旬で、天ぷらはふっくらしてておいしいですよ」と言ってしまった。
そこで先ほどから黙っていたクラウドが、お箸をおいて2人を見据えた。

「いつでもうちきはったらええですよ。一緒に旬のもの食べましょ」

2人が箸をとめた。

私も心の中で小さくうなづく。
あの話の後、「よかったら定期的に食べに来てもらえば」と私が提案したのだ。
私は2人と初対面で提案はしづらいし、とクラウドに頼んでみたところ、「なんや姉貴もおんなじこと考えとったんかい」と言われてしまった。

「いつも心配なんです。顔色も悪そうに見えるし、…ボス達ががんばってはるんは痛いほどよーおわかっとります。やから、せめてうちで息抜きしてったらええんです。こっちのほうがギアステに近いし、なんやったら泊まってもらってってかまいません」

2人は呆然としていたが、ノボリさんが慌てて、「いえ、そんなご迷惑は…」と手を振った。初対面であれだけ緊張感がなくなって話ができたのだから、気は遣わないと思うけど。
ちら、とクダリさんのほうを見ると、こっちをうかがうように見ていたらしい瞳と目があった。無言で慌てるクダリさんに、にっこり笑う。

「ええよな、姉貴」
「うん、もちろん。お2人がそれで、リラックスできはるんやったら」

即答した。

私は料理を作ることしかできないが。
それでもわかる。おいしいご飯はほっとする。

「…本当に、いいの?」

ノボリさんではなく、クダリさんが聞いた。一瞬また目があった。
ノボリさんが「クダリ、」とクダリさんをたしなめたが、クラウドが大きくうなづいた。

「ええですよ。姉貴昔はしょっちゅう友達連れ込んでタコパしてたんで」
「いらんこといわんでええねん」
「いって」

思わずいつものノリに戻ってしまって、緊張感が途切れる。
私達のやり取りに、ノボリさんとクダリさんが顔を見合わせて、それから同時に噴出した。






食事会から1週間後の月曜日。いつもより早くギアステーションにやってきたクラウドは、家から持ってきた紙袋を開ける。
今日からまた1週間、普通の人よりも張り切って働かねばなるまい。地下鉄に休みはほぼ存在しないのだ。朝食にも気合が入る。

「あっ、クラウドおはよー! おいしそうなの食べてるね!」
「ふぉ、ひろほすほはほうほはいはす」
「何言ってるかわかんないよ…」

ちょっと行儀悪かったな、とクラウドはくわえていたメロンパンを一齧りして咀嚼し、飲み込んだ。
ふんわりしたパン独特の甘い香りが口内に広がる。

「あれ、黒ボスは?」
「ちょっとバトルサブウェイの車両に寄ってから来るんだって」
「なるほど」

あれから1週間、2人のボスも少しすっきりした顔が戻ってきて、嬉しい限りだ。まだ2回目の食事会は開かれていないが、早ければ今週中にでも頼んでもいいかもしれない、とも思う。
むーんと考えながらメロンパンを食べ続けていると、ふいに横からの視線に気がついた。椅子に座ったクダリだ。

クダリはそわそわしながらクラウドの黄金色のメロンパンを見ている。

クダリ、というかサブウェイマスターの2人は、細い見た目の割りによく食べる。クラウドは、若いからだろうか…と遠い目をしそうになったがやめた。
とにかく食べる。結局先週の食事会もよく食べたので、姉は嬉しい悲鳴を上げていた。ちなみに姉もよく食べるほうである。

だからこそ、おいしそうなものは気になるのだろうか、子どものようにキラキラした目で見られると、とても気になる。
視線を合わせると、クダリは椅子の背もたれによりかかったまま、クラウドの手にあるメロンパンを指差した。

「どこのパン屋さん?」
「…いや、これ姉貴が」
「えっ」

そうなのである。

先週の食事会の翌日、以前姉が懸賞で応募していたらしいホームベーカリーが当たったらしく、突然我が家にやってきたのである。
試しに焼いてみよう!と意気揚々とパンを量産していた姉が思い出される。家でもしっかりしたパンは作れるのだなあと妙に関心してしまった。

これはその名残だ。

全部はやれないが、一口くらいあげるか。そう思って声をかけたのだが。

さん…」
「…白ボス?」
「はっ! えっ、何?」
「いや一口いります?」

何か様子が変だった。まだ寝ぼけているのだろうか。
そう思いながら、クラウドはちぎったパンを差し出すのだった。






忙しい日でも、昼食はかかせない。
それでも早めに食べてしまおうと、クラウドはいそいそと紺色の包みを取り出した。

丸い形のタッパを開くと、出汁の香りがふんわりと広がり、数名の鉄道員がなんだなんだと振り返る。
目ざといのは鉄道員だけではない。

「あっクラウドおべんと?」
「はい、姉貴が。今日はカツ丼すけどね」

クダリにそう答えながらカツ丼を口に運ぶ。
暑い時期には衛生上あまり食べられないどんぶりメニューだ。もごもごと咀嚼する。うまい。
いつもではないが、姉には周期的に「お弁当を作りたい」という欲求が生まれるらしい。そういう時には決まって自分の分もお願いしている。時々凝ったものにハマるらしく、スープジャーのお弁当ならまだしも、キャラ弁はないとクラウドは内々に弁当をこっそり食べていたことがある。今回はマシだ。

幸せそうに昼食をほおばるクラウドに、クダリが頬を膨らませる。
少し不服そうにしながら、買ってきたらしいサンドイッチを開けている。

「いいなーおべんと!ぼくもさんのあったかいご飯毎日食べたい」

それは、無邪気なクダリの何気ない発言だった。

思わずクラウドの手が止まった。
同じように昼食を食べていた鉄道員も、書類を作っている鉄道員も、その書類を確認しているノボリも、一時停止した。

クダリだけが変わらず、羨ましげにサンドイッチを齧っている。

今なんて言った?
硬直していたトトメスが、恐る恐る口を開く。

「…白ボス…それは…」
「クダリ、それだとプロポーズみたいですよ」
「えっ!?」

トトメスが言い切る前に、ノボリがズバッと切り込んだ。誰かがコーヒーを噴出す。
追い討ちをかけるように、キャメロンがうんうんとうなづく。

「毎日キミノミソスープガノミタイッテヤツダナ」
「ええっ!?」

そんなつもりはなかったらしいクダリが目に見えて真っ赤になっている。珍しいと思うと同時に、全鉄道員の視線が生暖かいものになった。

「白ボス…」
「クダリ…」
「ちちちっ違うもん!みんなのばかー!!」
「もんて…」

どうやら白ボスは、思ったより姉に胃袋を掴まれているらしい。そう思いながら、クラウドは静かにカツ丼を掻き込んだ。







多くの人々にとって折り返しの水曜日。しかし土日祝日も仕事のあるギアステーション職員にとってはなんの意味もない。
しかし、今日に限っては重くのしかかる「残業」が、鉄道員とサブウェイマスターの体に重くのしかかっていた。

「…はよ帰りたい…」
「寝言は帰ってからにしなさいクラウド…」
「うう…あとちょっと…」
「…」

ジャッキーに限っては言葉すらない。

無言で作業する中、突然、ぐうううう、という音が鳴り響いた。
ぴた、と全員の手が止まり、再び動き出した。一瞬でも止まっている暇はないのである。

「…今の、すっごい音。誰?」

半笑いで作業しながらクダリが聞いた。
眠気がマックスなのだろう、引きつり笑いはゾンビのそれにも見える。

「ボクじゃないです」「ちゃうで」

ジャッキーとクラウドのやつれた声がシンクロした。
しん、と静寂が満ちる。

「…ん?」

思わずクラウドは怪訝な声を上げてしまう。
今の空腹音、自分も白ボスもジャッキーも違うなら、

「…」
「…」
「…」
「…うっ、なんですその目は」
「いや黒ボスこっち見とらんやろ」

思わずクラウドは素で突っ込んでしまった。
くの字に体を曲げて腹を押さえたノボリが俯いたまま静止している。わずかに見える耳は真っ赤である。
おもしろさよりも先に、「(白ボスじゃないんかい…)」「(白ボスじゃないんだ…)」ものめずらしさが先行してしまった。

クラウドはふう、とため息をついて手をとめる。脳みそもフル回転しているし、空腹になっても致し方ない。
もうそろそろ来る頃か。
そう思いながら、背もたれに体を預けて伸びをした。

「こんばんはぁー」

がちゃ、と事務室の扉が開いて、クラウドの姉であるが顔をのぞかせた。
突然眠気が吹っ飛んだように姿勢を正したクダリを目撃してしまったのはジャッキーだけである。

椅子に座ったままのノボリが顔を上げて驚いた。

さま! どうしてここに…」
「いやあ、ウチの愚弟が腹減った帰れへんって連絡だけしてくるんで。ばっかやなー、お財布忘れてったんやろ? ん?」
「うっさい」

にやにやするに、クラウドが渋い顔をした。
ノボリがあせあせと立ち上がる。その動きは緩慢でおぼつかなく、厳しい言葉を投げかけてきた黒ボスも眠たいし疲れているのだなとクラウドは痛感させられた。

「こんな夜中に女性だけで…、クラウド!」
「ああ、帰るときは愚弟と一緒に帰りますんで、おかまいなく。お仕事邪魔してえらいすんません」

これは黒ボスに怒られるかもしれない、と思ったクラウドに、の何気ない一声が飛ぶ。

「よかったら皆さんのもお夜食作ったんでどうぞ。ウチの作り置きの焼きおにぎりですけど」

そう言った途端、おもしろいくらいにノボリの動きが止まり、怒りがしぼんでいったのが、背中だけでも分かった。
ついでにぐう、とまたもやノボリのお腹が一鳴きして、は「んっ?」と首をかしげた。







「ふー、つっかれた!」
「少し休憩ですね」

マルチトレインからサブウェイマスターの2人が戻ってきて、クラウドは顔を上げた。

「お疲れさんです」
「うん。あ、なんかおやつなかったっけ…」
「あ、白ボス」
「何?」
「姉貴からみなさんにいうておやつ預かってきたんですけど」
「えっ!?」

先日の残業後、一緒に帰る途中で、「ギアステって大変なんやなやっぱり…」「まあせやな」という話になって、なぜかそこからおやつを持たされる話になったのである。
ちなみに職場にクラウドの姉のお菓子が持ち込まれるのは初めてではない。今までにもクッキーやパウンドケーキ、バレンタインにはチョコレートを持たせていたからである。

はノボリとクダリの顔を知らないが話の上では知っていて、同じように鉄道員も、に会った事はないが「お菓子を作ってくれる」という認識だけはある。

「わー、なんですかこれ?」
「豆腐ドーナツとあんドーナツやったかな、ほれカズマサ」
「やった! ありがとうございます」

ドーナツの入った袋を持つクラウドに、鉄道員が一斉に群がる。
みな口々においしいといいながら食べていたのだが。

「そういえば、クラウドさんのお姉さんてどんな人なんですか?」
「アー、気ニナルナ」

カズマサがそう言い出した。

そう、いつもなら、「お菓子を作ってくれるお姉さん」という認識なのだ。
しかし先日の「白ボスプロポーズまがい発言」から、鉄道員の間では「お菓子を作ってくれる、“白ボスの気になる”お姉さん」という認識になっているのである。

当の本人はすっかりそんなことを忘れてあんドーナツを頬張っているが。

人一倍食いつきのいいキャメロンが勢いよく聞く。

「カワイイノ?」
「わしに聞くなや…」
「ボク会った」
「へー、どんな人でしたか?」
「普通に綺麗な人だったと思う」

おおーっと鉄道員が湧く。クダリはこっそり聞き耳を立てながらドーナツを飲み込んだ。
ノボリは呆れたように半目で黙々と豆腐ドーナツを齧っていた。







「こっ、こんばんは!」
「お邪魔いたします」
「あっ、こんばんはぁ」

クダリの無言の期待に応え、クラウドは金曜日の夜、再度2人を自宅へ招いていた。
エプロンを着た姉が、ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら「寒かったでしょう」と3人を出迎える。

リビングに入ったクダリが、すんすん、と真っ赤な鼻を鳴らす。それからぱっと笑った。

「いー匂い!」
「今日は粕汁作りましたよー」
「おーええなぁ」
「ほいクラウドこれ持ってって」



冷たい体に粕汁が染みこんで、皆でほっこりしていたところ。そろそろお暇、というタイミングで、突然切羽詰ったようにクダリが口を開いた。

「あっ、あの、さん!」
「ん? どーしました?」

おや、とノボリがクダリに注目する。クラウドの目も当然向く。指名されたはきょとんとしていたが。
しん、となった食卓で、クダリが慌てる。

「あ、いやあの…」
「はい?」

が急かさず微笑みながら待つと、ぐっと意気込んだクダリが目を瞑ったまま大声を上げた。

「ぼ、ぼくクラウドの上司! けど、さんの上司じゃない! だから、気軽に話して、ほしい…」

語尾が小さくなっていくと同時に俯きがちになっていくクダリ。そのつむじを見つめてから、は弟を振り返った。
弟は怪訝な顔をしている。

こういう場合はどう返したらいいのだろうか。親しくしてくれるのは嬉しいが、これは失礼にあたるのか?
はううむ、と考えてから、やがて小さく笑った。

「…そーお? ありがとう。じゃあクダリちゃんって呼んでもええ?」

お願いされたのだから、受けるのが筋だ。

がそう言うと、クダリは恐ろしい勢いで首を上下に振った。
が口元を手で押さえながらきゃらきゃらと笑う。

「うふふ、クダリちゃんかわいいー」
「えっ!?」
「ですって。よかったですねクダリ」
「!?」

真っ赤な顔で慌てるクダリと姉、ついでにノボリを見ながら、クラウドはぼんやり考えた。
あかん白ボスの反応マジっぽい。マジかー…。

クラウドはこっそりため息をついた。
火曜日の白ボスの動揺はマジモンだったらしい。要するに白ボスは…

弟がもう1人増えたと言わんばかりに嬉しそうなとクダリを横目で見つつ、静かにお茶を飲むノボリに声をかける。

「…黒ボスも呼んでもらったらええんちゃいますの」
「む。別にかまいませんけど…」
「ほんま!? じゃあクダリちゃんとノボリちゃんて呼ぶなぁー」

む、と仏頂面になったノボリだったが、その顔がほんのりと色づいていたので、照れているだけらしい。
なんだかおもしろいものを見てしまったなあとクラウドはひとりごちた。