「お弁当つくっておいたから、ちゃんと持っていきなさいよ」
「なんで?」
「何でって、学校行くならお弁当がいるでしょ、普通の中学ならいらないけど」





お母さんは化粧をしながら、呆れたように鏡に向かってそう言った。いや、私はそういうことを聞きたいんじゃないんだけど。私あんまり学校行ってないし。

そう言おうとしたら、「もうあっち行って、化粧がズレる」と手で追いやられた。いつもは必要以上にねちねちしているというのに、私がねちねちしようとすると日本刀並の切り口で突っぱねられる。不公平だ。

でもお母さんは働いてて、私は学校へ行ってないので、何も言えない。家での立場は弱い。

へいへい、といい加減に返事をして、朝のニュース番組の占いを見る。
最下位が発表されると同時に、顔に化粧を施したお母さんがリビングに戻ってくる。なんか今日化粧のノリがいいな。何かいいことでもあったんだろうか。





「鍵ちゃんと締めといてよ」
「へいへい」
「あとお弁当忘れないで午前中のうちに行きなさい」
「へいへい」
「……」適当に返事して流していたら、無言でこめかみをグリグリされた。ちょ、ちょっ、「あだ、いた、痛い、痛いですおかーさん!仕事遅れるよ!」「アンタのせいよこの馬鹿娘」一蹴された。





じゃあちゃんと鍵かけておくのよ、といわれ、ハイハイと返事をして追いやった。全く、何回も言われなくたって、もう小学生じゃないんだから。





「……まあ、小学生のときより不良ですけどね」

ははん、と鼻で自分を嘲笑い、あと二時間したら学校へ行こう、と思った。