椅子に座ると、周りが見渡せた。皆思い思いに立ち歩き、話している。
暖かい。

誰も、私が教室にやってこなかったことを追求しないし、非難もしない。
その優しい雰囲気が、私の心を溶かしていく気がした。





しばらくして、チャイムがなる。
担任が息を切らし、教室に入ってくる。
そして私を見つけて、少し驚いた顔をしていた。

クラス委員長達が前に出て、司会を始めた。
テーマはもちろん、文化祭について。





やっぱりこの議題は盛り上がるみたいで、司会役であるクラス委員長の言葉も聞かず、
皆は勝手に喋りつづける。
担任は、困ったように笑っていた。だけど、楽しそうだった。





「……?」





ふと気がついたら、スカートを握り締めていた。
おかしいな、と思っていると、頭の奥がぐわんぐわんと、痛みを訴えていることにも気がついた。





皆は相変わらずしゃべり続ける。当たり前みたいに騒ぎ続ける。
私が小学校にいたときと同じ、「クラス」独特の雰囲気。





「……?、……?」






何か、おかしなことでもあっただろうか。……いや、ないと思う。





だけど急に、その場にいるのが辛くなってきた。
足かせをつけられたみたいに、足がどんどんと、床にめり込んでいきそう。
背中も、何かがのしかかったように重い。





以前にも感じた不快が、私を占拠した。
私は耐え切れずに席を立った。おぼつかない、鈍い椅子の音がする。





「……っ」
「あれ?どしたん」
「私、ちょっと、保健室行ってくる」





声は少しだけ、ひきつった。
友達が驚いて、気遣う声を無視する。

できるだけ落ち着いて教室を出て、でもすぐに焦燥が私を襲う。





流れ行く風景も、人の声も、視線も無視して走る。










何で私は、逃げてるんだろう。





楽しく笑う「クラス」の風景が、ぐにゃりとゆがんだ気がした。