息を切らし、あの埃だらけの教室に転がり込む。
足に無理を言って走らせたから、扉を開けた途端、転んでしまった。
「……っつ」
痛さと、よく分からない不快で、顔が歪む。
何なのかが分からない。
腹が立ち、涙が溢れそうになる。
体が、心臓が熱い。
体を起こし、思いきり、拳を床にたたきつけようとした。
だけど直前で力が抜けて、たいしたダメージにならない。
もう何でもいいから、手なんて壊れちゃえ、と思ったのに。
「」
「!?」
必死に自分の手首を掴んでいたら、後ろから名前を呼ばれた。
思い切り心臓が飛び跳ね、少し痛い。
……だって、この声は、聞き覚えがある。
けれど、後ろを振り向きたくない。
首の辺りの、太い血管が、どくどくと脈打つ。
「」
心臓を、服の上から掴む。
「……?」
どっか行ってよ。今の私、格好悪いんだから。お願い、行って。
「……泣いてるのか」
ぐ、と喉が鳴った。
その声が、余裕を保っているのが悔しくて、
半ば八つ当たり気味に、私は顔を後ろへ向けた。
そこには、当たり前だけど柳がいた。
私は睨むように柳を見つめる。
こんな態度をとったのは初めてかもしれない。
きっと私の顔はぐちゃぐちゃだ。惨めで、馬鹿みたいな。
「……泣いてちゃ、悪い?」
「……いや」
柳は私に近づくと、腕を掴んで、私を立たせた。
それが優しい力加減で、私の心はますますささくれ立つ。
柳は私の腕を掴んだまま、口を開く。
「教室からお前が見えた。どうしたのかと思ったんだ」
「……何か、」
――何か急に、すっごいイライラして。
――教室にいるのが嫌になったの。
――だから、こっちに来た。
柳は、投げ捨てるように話しつづける私を、じっと見つめていた。
どうせ柳は優しいから、何も聞かないで、そうか、と言うんだろうな、と思った。
話し終えて、私は少しだけ溜まっていた涙を拭う。話せば、少しだけ気が楽になった。
腕は、放されていた。
ふ、と肺に溜まった息を吐き出す。
「……」
「……何?」
もう行くのかな、と思いつつ柳のシャツの、ネクタイの結び目辺りを見ていたら、柳が私の名前を呼んだ。
声色は珍しく、少しだけ硬い。
不思議に思いながら、私は、柳の顔を見上げる。
柳は、少し眉を下げていた。
「……?」何、その表情?
「、お前は、」
柳が再度、口を開く。
一瞬、その先を聞くのを躊躇いたくなった。
聞いてはいけない気がした。
パンドラの箱みたいに、開けたら、戻れなくなる気がした。
「お前は、寂しいんだな」