いやもう病人ちゃうんだけど……。

Her changeable life
〜彼女の変わった生活〜

夜。

あの後ぐっすり眠ってしまった私は、
夕飯が出来たと言いに来たカイトに起こされたのでありました。





おお……





目の前でほかほか湯気を立てる、ザ・雑炊。
しかもただの雑炊ではなくて、鮭雑炊。
……こういうの見ると、日本人で良かったとか思いませんか(何)





「どーぞ、召し上がれー」
頂きます……





カイトちゃんがるんるんってしながら声をかけてきたので、
私はレンゲを手に取りました、と。

この見た目じゃあ、マズいとかそういうありがちな失敗無さそうだね……。

ん、

ず、と汁まで吸い込むと、口に広がるダシの香り。
ううむ……うめえ……薄味だけど……。

「カイト、料理できるようになったんだねえ」
「はいっ!最初はーチャーハンを作ってみてー、」
「うんうん」

指折りしながら、自分の作った料理の名前を挙げていくカイト。
私は雑炊を口に運びながら相槌を打つ。

ふむ、息子がいたらこんな感じかねえ。いや、むしろ娘?
男の子はよっぽどじゃないと料理しないか。





「で、その時マスターがー」
「ほうほう」
ただいまー





話が料理から翔太さんの話題に変わったとき、玄関の方から声がした。
……翔太さんだよね?





あっ、おかえりなさい、マスター!

その場から動くことなく、お返事をするカイト。
足音は大きくなり、やがてリビングに到着する。





おおう、やっぱり翔太さんでしたか。





そういう意味合いを込めてにっこり笑ったら、少し驚いた後、笑い返してくれた。
ていうか、眼鏡変わってるな。黒縁になってる。





「……おはよう、それと久しぶり。ちゃん」
「…、…と、おはようございます……?お久しぶりです」
「あはは、良かった、元気だね」





ネクタイを緩めながら、軽く笑う翔太さん。
なにやら雰囲気が、落ち着いた感じがする、かな……?





「朝起きてきたら、ちゃん寝てるからびっくり」
「うへ……そこらへんは本当すいません」

もう最近何故か不法侵入が多くてですね……(言い訳)

「ん、いいよ。……雑炊食べてたんだな」
「あ、はい。あ、それとカイト、ごちそうさま」
「はーい」





からっぽになった器を下げるカイト。
……すっかり主夫になっちゃったなこの子。

そう思っていたら、翔太さんが去っていくカイトの背中を指さし、
小さく苦笑する。





カイト主夫みたいだろ?
ふへっ!?





翔太さんの台詞に、心の中を読まれたかと思ったが違ったようだ。
ていうか、マスター公認主夫ボカロか……
何かべーこんれたすな匂いするね!(違う)






「……ちゃん、今変な事考えた?
ええええええ違う!違います断じて!





なんか鋭いな翔太さん!




















夕食後、カイトのお手伝いとして洗濯物を畳んでいた。

……あ、翔太さんのぱんつをじっと見つめてて、
顔の赤いカイトにぱんつ奪われたっていうのは、
翔太さんには内緒だぞ。(誰に言ってる)






「よし、じゃあこのタオル、洗面所に運んでくるね」
「あ、今マスターがお風呂に入ってるので、バスタオル、
タオル掛けにかけておいてあげてください」
「ほいほい」





ここまでは良かったんだよな。





問題は、この後であった。

もふもふしたタオルに壮絶に顔を埋めたい気持ちを押さえ、
私は洗面所へと向かっていた。

そこで、ちゃんと確認してから、扉を開ければよかったんだ。





タオルのもふさ加減に、チーズのごとくでれっでれだった私は。





「「……」」















何も着ていないすっぽんぽんの翔太さんに遭遇してしまった。





だが萌える暇もなく、私の頭の中は
あーやっぱ男子ってこういう体つきなんだな……ふーん
とか悠長に考えていた。





それから美術品をじっくり見るかのごとく、たっぷり30秒間を空けた私は。






「……ああ。すいませんでした
……





何ごとも無かったかのように、扉を閉めたのだった。





……後から絹を裂いたような声が聞こえたのはきっと気のせいだよ。多分ね。





いろいろとフリーズしながらも居間に戻ったら、
カイトが丁度Yシャツにアイロンをかけていた。

カイトは私の持っているタオルに目をやり、不思議そうな顔をする。





「あれっ、さん、なんでタオル持ったまま戻ってきてるんですか?」
「……んー、と。





翔太さんが着替えてた






「や、だから着替えてた





カイトは停止する。
ついでにアイロンも停止する。
ついでに私も事の重大さに気付いて停止する。






焦げ臭い匂いが漂ってきたところで、私の意識が戻ってきた。
心なしか、冷や汗がこめかみを伝う。





あれ……もしかして、やばかった……?
「……ヤバイですよそれは!!!!!





カイトが私の声を起動音とするかのように意識を戻す。
見てしまった本人(※私ですが)よりかなり慌てふためいている。

えー……でもさ。





なんかあんまりにもいつもの自宅っぽくてつい……
こう……いつもの……父ちゃんの裸を見るくらいに見てた。
あと、絵の参考になるな、とか

何言ってるんですかあああああ!
「……カイト、アイロン」





そう言うと、カイトははっとアイロン台に目をやる。
なにやら香る、焦げ臭い匂い。

慌ててアイロンを起こせば、シャツにうっすらと茶色い色。





う、わああああ!やっちゃったー!
「……やっちゃったー(棒読み)





風呂から出てきた翔太さんに、何て謝ろうかな……。
私たち二人は、そればっかり考えていた。






























2009.8.29