おお……!
Her changeable life
〜彼女の変わった生活〜
有希と一緒に学校へ来て、
私は校内を透明になってぐるぐる散策したりして(ちゅるやさん見つけたよ!)、
そして放課後。
「やっ、古泉くん」
「おや、お久しぶりです」
部室の扉を開けて一番初めに目に飛び込んだのは古泉君でした。
まだ有希と古泉君だけかあ……。
「……あり?キョンは?」
「今日はまだですが」
「あらま」
つまんね、と小石を蹴るふりをすると、古泉くんが綺麗な笑みを作る。
……うーむ。私としては、
目を開いて笑っているときのほうがかっこよく見えると思うんだけどねえ。
「さんは、キョンくんが好きですね」
「あ、やっぱ分かる?」
ぬめへっ、と笑ってみる。おっと間違えた、にこっと笑ってみる。
ていうか、もしかして古泉くん嫉妬してる?やっだー冗談にならないぜ☆
……おお、ブレーキを踏まないとここまで妄想が爆発するのですね。
分かりました。
ブレーキブレーキ。
「いやあ、ちょっとしたネタも持ってきたし、
ちょっぴりからかってやろーと思ってて…」
「誰をからかうって?」
「……おろ?」
背後から聞き覚えのある声がしたので、振り向こうとしたら、頭にごんっ、と鈍い衝撃。
それでもなお、首を後ろに向ければ。
「……あららキョン。ご機嫌うるわっしゅー」
「お前のせいでご機嫌は急降下だ」
口元をひくつかせたキョンくんがいらっしゃいました。
おおう、イジりがいのある顔をしてらっしゃるね……。
「あ!」
そだそだ。
前回は有希にしかしてなかったな。
ここじゃ狭い……。
……距離を置いて、と。
「……?」「キョン、たっだいまー!」「うわーっ!?」
キョンに思いっきり抱きついてみた。
やーだって前回さ、了承を得ようとしたら照れちゃったからね。
ちなみにキョンの体に負担が掛かったら怖いので、
腹に突進しました。首にぶらさがって首いためたとか言われたらヤダし。
むふぉー、キョンのおなかぷにぷにしてないー、男の子っぽーい。
「こらっ、離れんか!」
「やだー」
ていうか頭押さえつけんなし。髪の毛ぐっちゃぐちゃになる!
「ぷふー!キョンの匂いした!」
「この……」
ぐぐぐぐ、と拳を握られて、やべっ、と小さく声が漏れる。
一方キョンは、なにやら呪詛みたいなものを呟いている。
変態とか聞こえるから、私への恨み言ですね、分かります。
足に力をこめ、瞬時にスタートできるように。
「……逃げろー!」
「こら、待てこの野郎!」
野郎じゃないよ馬鹿!
「ひーっ、ふ、ひー」
「っ……、っつ」
あ、キョンその表情エロい。
その言葉は、走った疲労に飲み込まれる。
ちなみに、前者の色気の無い声が私です。
廊下は走るなという言葉を無視して全力で追いかけっこしたところ、
二人で屋上にゴールインしてしまった。
そして今は、普段の運動不足がたたって、二人で空を仰いでいる。
ようするにもう走れません。
ざあ、と強めに吹いた風が汗を冷却する。
少しだけ冷たい。
「……お前なぁ」
「んぁ?」
二人で正反対の方向に寝ているので、キョンの顔は見えない。
「女だったら、もうちょっと恥じらいを持て。行動に責任も」
「やだ」
「殺すぞ」
「愛の表現なのにー」
「そーかい。じゃあ俺は愛されてるっていうのかよ」
「いえしゅ……噛んだ」
「馬鹿かお前」
「うっせこのキョンくん」
あーあーあー。
せっかくキョンくんの新キャラソンについてのネタを持ってきたのに。
なんか話すに話せない状況だよ。
「……ホモ、なんちゃら」
「はあ?」
「いえなんでも」
もういいよ言わないよしょうがないな。
……ていうかなんか喋って。沈黙気まずい。
「……」
「……はいよー」
「……まぁ、アレだ。散々追い掛け回したり……まぁ、お前が悪いんだけどな、」
「(結局それか)何?」
「あー……」
「何さ」
小さくキョンは息を吐くと、小さく言葉を切り出した。
「おかえりというか、なんというかまぁ……」
……。
……あー、なんか、そわっそわしてきた。
口元が、目尻が、動きたそうに震える。
ちきしょー、キョンが照れるから私まで照れてきたじゃないの。
「……あー、うん、えと。ただいま、です」
心の中では足をじたばた。
「うん」
小さくはにかむように相槌を打たれたので、恥ずかしさが急上昇してくる。
あわてて口をついた言葉は、誰が聞いても照れ隠しだった。
「……何これ。中学生日記じゃないんだからね。何この青臭さ。
もう……何これ」
「知らねーよ」
二人で数秒黙ってから、同時に噴きだす。
慣れない事するから。
でも、「アリかな」「なんだって?」「んーん」
小さく、口の中で幸福を転がしてみた。
2009.12.24