……えーと。

Her changeable life
〜彼女の変わった生活〜





行きたいところ、ですか





うんそう、と翔太さんが頷く。
どうやらもうどこかに行くのは決定事項のようだ。
カイトもわーいお出かけーとか言ってるし。3歳児か。





「や、でもお金もったいないし」
「別にそんなことないけど?」
……つってもこの辺の地理知んないですよー?」
「大丈夫、遠出だから」





翔太さんはそういうと、車のキーが付いているらしいキーホルダーをくるくると回す。
……翔太さんって車持ってたんだっけ。初めて知った気がする……なぁ。

机の上に広げられている観光雑誌。
その一つを摘み上げ、「ここから選んでいいですか?」と聞いてみる。

「ああ……いいよ」
「ども」

ぺらぺらっ、とめくる。
店、寺、博物館……色々載ってるなあ。

「お」
「ん?なんかいいのあった?」
「いえ……」

これ、と指さした先には喫茶店。
……さすがにこのメンバーでおしゃれな喫茶店とかは入れないけど。

「喫茶店に行くの?」
「いえ、そうではなくて。このお店の近くに海があるそうなので」
「んー……?どれどれ」





翔太さんが雑誌を覗き込む。
地図を確認し、場所を確かめているようだ。





さーん、海行くんですかー?」
「うーん、たb…、…カイト
はい?
「はい?じゃなくて浮き輪は置いていこうね……
えー





えーじゃなくてこの季節に海につかったら死ぬっつーの。
呆れながら、ついでにカイトの髪の色も変えておく。





「よし、じゃあ出発しようか。海」
「あ、本当ですか!?」
「うん、じゃ、早く行こう、服着替えておいで」
「あ、はーいっ」





早くねーっ、とカイトが急かし、
その後ゴチン!という音がしていたので翔太さんの拳が吼えたのだと思われ。





んー……





なんていうかちょっと、楽しみなのですが。






















さっさと支度を済ませた私は、翔太さんたちと車に乗り込み。





そして、途中パーキングエリアで休憩したり。
そのパーキングエリアでカイトがアイスを強請って半泣き攻撃に出たりだとか。
車の中でカイトに新曲とか翔太さんの曲メドレーで歌ってもらったりだとか。
後私がうっかり酔いそうになって空間の再構成使ったりだとか。






馬鹿騒ぎしているうちに、










とうちゃーく!
青い!青いですよさん!
「どわーっ!?うわ、やめ、カイッ……潰れるじゃろおおお!
「あはははっ」






海へ到着しました。





カイト、海が青いと喜ぶのはいいんだけど、私の首に突進せんで。本当に。
ていうか抱きついて飛び跳ねるのはいいけど、重いっ、重い!軽いけど重い!





「ほらカイト、離れる離れる」
「だってマスター!海!
はいはい





私のときと同じように首に抱きつこうとするカイトを引っぺがす翔太さん。
ちょ、そこははがさんでええのに……!萌えたのに……!

ていうか、翔太さん、カイトのことほとんど大型犬扱い。





「んー、潮風が、海っぽい」
「……いい曲浮かびますー?」
只今天才は作曲中じゃ

ふぉっふぉっふぉ、と誰かの真似をする翔太さん。
私も少し笑って、伸びをした。





「あっ、カイト!海入るなら靴脱いで靴!」
わーっ、
ああほら早く!





波うちぎわで、何が楽しいのか波と追いかけっこするカイト。
ううむ、海と美青年。まったくもって素敵な絵。





カイトに「持っててください!」と言われ、
靴を押し付けられた。(私は荷物係かい)
そしてそのままカイトは海に突進。
……ふふ、こんなこともあろうかと、タオル持ってきてよかったぜ。





うーみーはーあおいーな、おーれーのめー
「……あれ





途中まではいい声とか思って聞いていたが、思いっきり歌詞を改変してやがる。
うっかり、翔太さんと一緒にがくっと躓いた。

カイトに至っては、調子がのってきたのかBlue timeを歌いだした。
あんまり深いところ行ってないから、大丈夫だろ……多分。





ふと後ろから、砂を踏む音がした。





「ままー、あのおにいちゃん、うたうまいねー」
「そうねぇ」
「……あ、どうも。すいません、うるさくしちゃって」
「いえいえ」





子供連れのお母さんだった。

お子さんのほうは、ぷにっとした頬をつつきたい女の子。要するに可愛い。
あと、どことなく、地獄少女の世界で会ったちまに似てるなーと思った。
お母さんのほうは、年は若いのだろうけど、どこかゆったりしている。
どんな年齢より「お母さん」という年齢が合いそうだ。

お母さんのほうはゆったりと顔を緩ませながら、カイトの方を見る。




「あちらの人は、歌手さんか何かですか?」
「あ、いえ。似たようなことはやってますよ。ね」
「ですね」

翔太さんと一緒に、目線を合わせてこくこく頷く。
多分ボーカロイドって言っても分からないだろうし。





「地元の方ですか?」
「ええ、そうです。よく近いから散歩に」
「あーなるほど」





そう相槌を打ってから、女の子の方を見る。
女の子は、興味津々と言った様子で私を見上げてくる。臆病ではないようだ。





「ちま、遊んでもらいたいの?」
えっ
「……あの、ちまちゃんっていうんですか?





そう問い掛けてみると、「そう、ちま。ちま、あいさつは?」と返事が返ってくる。





……これは、あれかな。
魂は同じって奴かな。





じゃあちまの幼少期にあたる……のか、な?





えと、ちまです!よろしくおねがいします!
よ、よろしくおねがいしますっ
「何ちゃんまでかしこまってるんだよ」





翔太さんとちまちゃんのお母さんに笑われる。
だって……凄い必死にお願いしますと言われたんだものよ。





その後、ちまちゃんと砂にお絵かきしたりして、時間を潰し、
後半辺りになってくると、
足がびっちゃんびっちゃんのカイトまで混ざってきたりして。





少し保母さんみたいな気持ちで、海辺散策を終わらせたのは、言うまでも無い。






















ふぁ……





大きくあくびをして、指を開閉させる。
ちまちゃんのほっぺはアレ、この世のものではないよなぁ……。

そう思いつつ、隣で寝こけているカイトのほっぺを触ってみる。
……ふむ。結構もっちり。ていうか涎垂れてますけど。





ちゃん」
どわっ、はい?」





カイトのほっぺを弄くっていたのが怒られるのかとおもって、
予想以上にびっくりしてしまった。
だけど翔太さんは構わず、「しばらく寝てなよ」と笑った。





「いやー……でも翔太さんも運転してるし」
「いいからいいから。どうせカイト寝てるだろ」
「まあ、」





じゃ、寝ておきな。





それが魔法の言葉だったように、今までの眠気が一気に押しかかる。





寝る前、どうにか聞こえますように、と。





小さく、「おやすみなさい」と呟いた。
































2009.11.26