「…」

青い青い、茫洋とした空。
そこに感傷を覚える私は、きっと何かに傷ついているのだろう。

ばたん、と音がして、屋上に誰かが入ってきた事を知る。
私はゆっくりと振り向いた。





「いた…!昼だぞーっ!」





肩で息をする四月一日が、そこにいた。





私を探しにきてくれたのかな、と思うと頬が緩む。
けれど。

「今日はいい。ごめんね。独りで食べる」
「え…」
「ごめんね」

嫌われたら怖いから、もう一度、念を押すように謝罪する。
四月一日は目を見開いて、こちらを見る。

「た、食べるものあるのか?」
「無いけど。あんまり食欲ない」
「え、それって調子が悪いんじゃないか?熱は?」
「違うよ、食べたくないだけ」

私の心配をしてくれる四月一日。
私を探してくれる四月一日。





全てに、嬉しい――筈なのに。





「じゃ、じゃあおれも!」
「……は?別にいいってば!」
「いいよっ!百目鬼達には先に食べてろって言ったし」

座り込む私の隣に、四月一日がどかりと腰を下ろす。
私は呆然として、四月一日を見つめていた。

――途端、渦を巻くような間抜けな音。
…お腹の虫は正直らしい。

「…やっぱりお腹減ってるんじゃない」
「だーっ、減ってない!」
「…そう」

噛み付くように否定されたから、さっきの音は無かった事にした。

「それで?」
「?」
「何でそんな暗い顔を?」
「…してた?」
「してた」

ふうん、と呟いて、私は四月一日の瞳を見つめた。
四月一日は、そんな私の視線にたじろぐ。

「な、何だよ?」
「四月一日の所為なの」
「は?」
「私の、暗い顔の原因」

まっさおなそら。
広くて、色んなモノを持っているけど、私にはつかめない。

そこに四月一日を連想した私は、きっと――。





∞∞∞





「な、なぁ」
「…」
「おれの、所為って?」
「…」

先ほど衝撃的な一言を発してから、黙り込んでしまった
おれは、なんでがそんな顔をするのか分からない。

「…」
「…」

空を見つめる横顔は、寂しそうだった。
人気の少ない公園で、独りブランコに乗っている子供のような。

「…」

にそんな顔をさせたくなくて、おれは言葉を考えた。





「…おれの所為なら、謝るよ…ごめん」
「…別に、謝らなくたっていいんじゃないの?」
「え?は?」





はふい、とそっぽを向く。

本当に意味がわからない。
おれは内心頭を抱えた。

もどかしくて、おれの何がにそんな顔をさせているのか分からなくて。
もやもやと、自分に腹が立ってきた。





「…!何で怒ってるんだよ!?」





――なのについ、にあたってしまった。
はびくり、と肩を揺らして、まずいと気が付いた時にはは顔を歪めていた。





…っ違う、そんな顔を、





「…怒ってない!」
「お、怒ってるだろ!返事もろくに、しないで!」
「怒って、怒ってなんか…」





言葉が尻すぼみになっていく。
は膝を抱え込むと、そこに顔を埋めた。





…もしかして、泣いた?





「…?」
「…っ」

小さく聞こえる嗚咽。
震える肩。

が、泣いている。
誰の、所為で?





俺の、所為で。





∞∞∞





四月一日は何も分かってないんだな、と悲しくなった。
泣く自分にも吐き気がして、何を悲劇の主人公気取りしているんだろう、と思った。

…ああもう、思考がぐちゃぐちゃ。
調子に乗って、色を混ぜた絵の具みたい。

「…?」
「…っ」

やさしいこえ。





その声に、素直に返事が出来たなら。
この涙をぬぐって、笑うことが出来たなら。





でも、今の私には何一つ出来ない。

「…ごめん」
「…」
「ごめん、
「…っ」

四月一日は悪くない。
私の勝手な、感情だけで、

四月一日は。四月一日は、「悪く、ない」





開けた視界は、綺麗な色。
寒色が陣取っていて、心が冷たく、冷えていく。





「四月一日は悪くない、悪くないの」
「…?」
「でも、でも、」





欲を言うなら。





「もっと、私に構って、無茶しないで、どっかへ行っちゃわないで」





宇宙の原理とか四月一日の存在の意味とかそんなの関係無い、
私には、たった一人の四月一日君尋だから、だから、





抱き、しめ、られて?





「…わ、た、ぬき?」

あったかい、のは、わたぬき、で?

「…ごめん。…それと、ありがとう、





∞∞∞





思わずを抱き締めた。





どこかへ行きそう、なんては言ったけど、今はの方が消えそうだから。





「わたぬき、」
「…」
「くるしい、よ」





の細い肩に、顔を埋める。





寂しかったんだよな、
ごめんな、

もう絶対、独りには、しないから。

「ごめん、な」
「…」

君だけ
独りには、しない。





09.04.02