「あーマジ癒されるカナちゃんいーやーさーれーるー」
「ああ、そうなんだ…」
少し疲れたように返事をするカナダ。
カナダを後ろから抱き込むは、満悦そうに頬を緩めている。
はカナダの肩に顎を乗せて、木馬の様にリズムを取った。
「ああ、いー匂いー…めいぷるだねぇ」
「本当?」
「おうとも、だからね」
ちゅーしていいですかー、と間延びした声で問い掛ける。
――途端、カナダはと距離を取った。
真っ赤な顔のカナダに、は眉を顰める。
「ちょっとちょっと、付き合っているというのにちゅーもしたらアカンのかね」
「いやっ、べべべべ別にいいですけど!?」
「何でそんなに緊張するかね」
猫のように、四つん這いでカナダに近寄る。
じりじりと、二人の距離が縮まる。
じっ、と猫のように丸い目が、カナダを捉える。
その丸い目が、ふ、と線になる。
「別に取って食べたりしないよー…。…嫌ならやめよう、ね」
「べ、別に嫌じゃ…!」
慌てて手を振り、弁解するカナダ。
は体勢を立て直し、体操座りになった。
膝に顎を乗せ、ふあり、と笑う。
「嫌じゃないってことは、私のこと好きなんだね。
嬉しいなあ」
「え、あ、まあ…は、好きだよ?」
「私も好きだよカナダ。すきすきすきすきすしよう」
「何でそうなるの!?」
「嘘だよ」
いひひ、と健康的な歯を見せて笑う。
カナダは、はぁ、と肺に溜められた息を吐いた。
はそんなカナダの手を取る。
愛おしそうに、宝石を扱うように、大切に握る。
「折角クマちゃんに出て行ってもらったから、いっぱい話がしたいね」
「そ、うだね…」
「カナダは放っておくと一日ぽーっとしたままなんだもん。私が動かさないと」
ぽん、とカナダの手の甲に、掌を置く。
それから体操座りを解いて、もう一度カナダに近寄った。
カナダは顔を赤くする。
はゆっくりと、その顔に手を伸ばした。
カナダはびくり、と肩を揺らして目を閉じる。
「……………………………あ、れ?」
「何、なんか期待してた?」
悪戯っぽく笑う。
の手には、曲線を描く眼鏡。
「あ、」
「これ」
ぷつ、とフレームの近く、レンズに当たらない位置に、は唇を落とした。
眼鏡に、キス。
「――流石にキザったらしかった?」
照れているのか、目尻が赤くなる。
カナダは呆然としてから、はっと口を覆った。
はカナダの顔を覗き込む。
「…カナちゃーん?」
「……何してるの!」
「眼鏡にちゅう」
さらり、と自分の行動を口にする。
ちょっと恥ずかしかったよー、と頭の裏を掻くに、カナダは詰め寄った。
「お?お?」
カナダはの手から眼鏡を取ると、自分の顔にかけた。
いつもの位置に戻ってきた眼鏡に、少しだけ頬を緩める。
それから目をつぶって、えいっ、と顔をの顔に近づけた。
え、と口を開けて停止する。
少し開いた口の、下唇に、カナダの結ばれた唇が当たる。
名残惜しいように、二つはくっつきながらも離れた。
カナダは収束させていた瞳を開けて、少し眉を寄せた。
と同じように、目尻に赤を添えながら。
「……、悪戯は駄目っ!」
は瞬きを二つ。
「……カナちゃんこそ」
は顔を手で覆って呟いた。
〇
向き合ったまま、無言の二人。
カナダは口を閉じて、俯き、照れたまま。
は赤くなった顔を覆ったまま、黙るだけ。
「…めいぷるの香りがした」
くぐもった声が、小さく震える。
カナダは目線だけを上げて、「……そう?」と返した。
は顔を覆ったまま、首をふるふると振る。
「…なんて恥ずかしい。はれんち」
「、が先にやったんじゃないか…」
脱力しながらカナダは返す。
「…喧嘩はやりかえしたら両成敗なの」
は真っ赤な顔を上げて一つ呼吸すると、地面を蹴った。
ふわりと体を持ち上げて、甘い香りのするカナダへと抱きつく。
カナダはよろけたが、何とか後ろに踏み込みを支える。
はカナダの体に顔を埋めて、叫んだ。
「……カナダ、大好きだー!」
「えっ、ちょ、えっと」
慌てふためくカナダ。
恥ずかしさで潤んだ目が、「カナダはどうなの」と問い掛けてくる。
カナダはうっ、と詰まってから、明後日の方向を見ながら叫んだ。
「ぼ、僕も!」
「……そこは愛してるって言ってよ!」
はカナダをヌイグルミのように抱き締めた。
ハニキスベイベー
甘い二人に乾杯!
09.03.29