「――クラッシュボム」





静かな声と共に、クラッシュマンが、なにかを私に向かって撃ってきた。
私は反応できず、足が竦む。





殿、とシャドーが叫び、私を一瞬でその場から離す。
気が付いたら、鉄格子の中が爆発していた。





爆風で揺れる髪と共に振り返れば、シャドーがほっとした様子で、私の腕を掴んでいた。





『戦闘オペレーションを開始します。――シールド発動』





サンタナシステムのどこかから溢れた青い光が、球体となって私とシャドーの周りを囲む。
その瞬間、クラッシュマンが撃ったもの――おそらくクラッシュボムが、その球体に当たって爆発する。次々と、次々と。

私は、尻餅を付いた。

「な、なにこれ……」
「どうやら、爆弾のようでござる」


攻撃が当たらないものの、爆音と閃光、そして何より、恐ろしい雰囲気のクラッシュマンに戸惑う。
そんな私に気付かずに、シャドーはのうのうと武器の判定をする。

……そこでようやく、状況に思考が追いついた。





「……って、シャドー!アンタ、何しちゃってくれてんの!?」
「あ、いや……ははは」
「はははじゃねーよ!私関係ないし!クラッシュマン完璧キレてるよ!何でああいうことすんの!?」
「いや……つい、寝惚けておって」
「あほおおおおお!!」





(お前が抵抗した場合は、殺せばいい)





クラッシュマンは昨日、そう言っていた。ていうか、この状況を見れば分かる。このままじゃ確実に殺られる。
このサンタナシステムのガードもいつまで持つか分からない。どうすべきなんだ一体……!





ふと足元を見れば、「ぎゃー!」





ガードが既に解除されかけていた。うっすらと、虫食いみたいに穴が開いて、青色が無い。
血の気が引く、というのを、身をもって体験する。





「しゃしゃ、シャドー!やばい!死ぬ!マジで死ぬ!」
「ちょ、えええ!?」
「アンタこっから出て一人で戦ってよ!」
「しょ、少々苦手なタイプでござる……すまぬ」
「使えねえ!」





一応、とシャドーが私の前に立ち、シャドーブレードを構えるものの、その姿には不安しか感じられない。
私も私で、あのときみたいにグローブが役立つわけでもない。けれど一応、立ち上がり、シャドーの後ろに控える。





頭上を見れば、みるみるうちに、青色が引いていく。
私の命も、どんどん終わりが近づいてくる。

何十回目の爆発が、終わる。





その時だった。





「ちょ、ピピ!?」





先ほどから姿の見えなかったピピが、私たちの前に降りてきた。
当たり前だけど、ピピはシールドの保護内にいない。あんな小さな体では吹き飛ばされる。





「シャドー!どうし、」
「待て!殿……」





シッ、と口を柔くふさがれ、私は黙る。
何だと思っていたが、私もそこで、ようやく違和感に気が付いた。





いつまでたっても、攻撃が無い。





「……」





そろ、とシャドーの後ろから前へと移動する。
ピピは空中に停止したまま、クラッシュマンを見つめている。





クラッシュマンは、いまだに腕を前に伸ばしたままだった。
しかし、そこから動く様子はない。





シールドが完全に解けても、クラッシュマンは腕を構えたままだった。





シャドーの肩に、ピピが止まる。





「……戻れ」





クラッシュマンが、ゆっくりとそう呟く。
え、牢屋ん中に戻ればいいの……?





「……え、と」
「早く戻らないと殺す」
「はいいいい!!」





猛ダッシュした。生死をかけた超短距離走だよ……!なんかシャドーもついてくるし!
中に戻ると、なんとなく虚しくなった。……外が恋しい。





クラッシュマンは私たちに背を向けて歩き出す。ピピもシャドーから離れて、それについていく。
だが、途中でゆっくりと振り返った。

その顔は、変わらず無表情だったけど。





「馬鹿な真似をしたら、始末する」





……完っ全に、嫌われた。