「そういや、なんかぼろぼろだな!」





それはクイックの何気ない言葉から始まった。

シャドーやスネークと他愛ない話をしていたクイックが、突然私の全身を見てそう言ったのだ。
あまりにもはっきり言うものだから、一瞬何を言われたのか理解できなかった。

私はぽかんとしてから、少しだけ恥ずかしくなって、髪をくしゃりとかき混ぜる。
そりゃそうだ。お風呂はもちろん、さっきは爆撃にあったし、顔は涙でぐちゃぐちゃ。心なしか、頬がカピカピする。

スネークがしまった、という顔をして「馬鹿!」とクイックの頭に拳骨を落とす。
「いって何すんのていうかそれスネークも痛いだろ!」とマシンガン気味に不満を口にする。

痛いとかあるんだ、と思いつつも、顔はなんとなく気まずくて上げられない。

「あー……、体とか、洗いたいよな」

疑問符をつけない疑問をスネークが投げかけてきて、私は小さく「……出来たら」と返事する。

スネークが腕を組み、小さくうなる。





「だけどここにはロボットと博士しか住んでねえからなァ……あ」





思いついた、というように、スネークが腕を解く。
私は首をかしげながらスネークを見る。





「バブルに頼むか」
「バブル?」





一瞬私の頭の中に泡風呂が思い浮かんだのだが、頼む、という言葉からして――ロボットだろうか。

そう思った瞬間、少し苦い気持ちになる。
クイックやスネークのように親しげならまだしも、メタルマンのようなロボットだったらどうしようか。そんな不安がじんわり胸に広がる。

ただ、スネークが次に続けた言葉によって、私は少しだけほっとした。





「アイツなら敵意もねェだろうし。そうすっか」





敵意がない、という言葉を聞いて、自然と肩に入っていた力が抜ける。
そんな私に気づいていないようで、スネークは「シャドー」と自分の斜め後ろに向かって声をかける。
名前を呼ばれたシャドーは、自らを指差し首をかしげる。





をバブルのところに連れてってくンね?」
「バブル殿のところに?」
「こっちからバブルには行っとく」
「御意」





シャドーはうなづくと、私の左手を取る。





「じゃあ、早速行くでござるよ殿!」
「ちょっ、ちょっと待ったシャドー!私着替えも何も用意してないから!」





あわてて叫ぶと、シャドーはきょとんとして「ああ、そういえば着る物が必要……」とこぼして納得していた。
もしかして、シャドーはロボットだから着替えるって概念がないのかな。というか、お湯に浸かる習慣自体無いか。

なんとなく納得していると、スネークがクイックの肩をぐい、と押して入り口に向かわせる。





「んじゃ、オレらは退散すっぞ」
「ええ?何で」
「用もねェだろ」





ちら、とスネークがこちらを見てきたから、もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれないな、と思いつつ小さく手を振る。
入り口に押しやられているクイックが、顔だけをこちらに寄越して叫んだ。





「またな!あとシャドーも次は絶対戦うからな!」





はいはい静かに、とスネークに言われながら、クイックが退散する。
私は「また」という言葉に少しうれしくなりながら、閉じた扉を少しだけ見つめた。