ひゅうひゅうと、耳で風を切る音がした。
うなじの少し上辺りが、ずきずきと痛む。





「……?」





ゆっくりと目を開けると、そこには、合宿用に持ってきていたスポーツバッグ。
しかし、手に重みは……少しだけある。右腕だ。

けれども、スポーツバッグは左目で確認できる。





「……あれ?」





私は急にまどろみを弾き飛ばした。





目を開き、それまでもたれかかっていたものを見る。





「!……あ、あんた、あのときのロボット!」
「……目が覚めたようでござるな」





私が上体を起こすために手をかけていたところは、そのロボットの肩だった。肩は、冷たく硬い。
ロボットは私を一瞥し、それから前を見て呟いた。





「ちょ、ちょっと!?離してよ!降ろして!」
「今降りても、家へ帰れないでござるよ」





ぐ、と何かが競りあがり、疑問が生まれる。
戸惑ったまま周りを見回すと、どうも私たちがいるのは、森の中らしかった。

どんどん、心音が加速していく。





何、これ。





私がどんなに不安になっても、ロボットは私を背負ったまま走りつづけている。




どんどん不安が加速して、恐怖が芽を出す。





「あんた……私を誘拐でもするつもり」
「否」
「……」





じゃあなんなの?と聞きそうになった口を結ぶ。
下手に何かを聞いて……傷つけられたらたまらない。

ロボットは少し首を傾け、喋り始めた。





殿でござろう?」
「……」
「拙者は殿の祖母方に作られたロボットでござる」





「……は、?」





「あそこにいたのは、来るべき今日が為。
拙者がいる理由は、殿の援助。
それだけでござる」
「え、えんじょ?」
「?……殿は、世界を救いに行くのでござる。その援助、であるが」






「……はあ!?」





けろっと言ってのけたロボットに、私は思わず、それまで押さえていた言葉を叫んでしまった。
ロボットは気にせず、それどころかころころと笑って言った。





「拙者、シャドーマンと申す。気軽にシャドーとでも呼んでくれて構わないでござるよ」
「え、は?え、やだやだ嫌だって!」
「……そこまで言われると傷付くでござるなあ」





その言葉を誤魔化すように、ロボット――シャドーマンの走る速度が上がる。
私は思わず、落ちないようにしがみつく。





「ちょ、ちょっと!!どこ行くの!!!!!!」

風圧に負けないよう、私は叫ぶ。
シャドーマンも少しだけ、声量を大きくする。





「ワイリー博士のアジトでござる!!」





その時出てきた、世界的に有名な犯罪者の名前を聞いて。





私は思わず、「もう落ちてもいいから家に帰りたい!」と叫んだ。