「……」
目を開けると、天井があった。……青空や、夜空よりはましなのか。
背中は、少し堅いが……ベッドの上にあるらしい。
ぼんやりとした頭で、周りを見渡す。
「……ここ、どこ」
頭が急激に冷えて、私は体を起こす。背骨が軋み、かすかに苦渋を覚える。
シャドーマンと……多分、ワイリーのロボットと戦ってて。
「そうだ、シャドーマンは……」「あいつなら今、修理中だ」
私は驚いて、突然聞こえてきた声の方を向く。
そこには、先ほどまで戦っていたロボットが、鉄格子越しにいた。
私はベッドから降りようとして、そして、ふらついた。
何か足が重い、と感じて足元を見ると、足首になにかがついていた。
太い、手錠のような。そこから鎖が伸びている。
鎖を辿ると、重そうな鉄球が目に入った。
「……何、これ」
「お前は、どういう目的でここへ来た。政府の依頼か?あのロボットは、戦闘用か?世も末だな、お前のような、」
「ちょ、ちょっと待って!」
ぺらぺら喋りだすロボットを、私は声で制す。
「……何か、勘違いしてない?私は、……シャドーマンを作った人間でもないし、ましてや一般人だから政府とか、」
「嘘をつくな。お前たち人間が、ロボットを酷使していることは知っている。言い逃れはできない」
「ち、違うってば!」
私は誘拐されたの!あのロボットに!
そう訴えても、あの動きは一般人ではできない、と一蹴される。
確かに。そういわれると、ぐうの音も出ない。
「もし仮にお前の話が本当だとして、あのロボットの開発者は誰だ」
「……それは、」
「答えられないのか」
見下したように言われ、少しイラつく。
それから、はき捨てるように「……私のお婆ちゃん。祖母だよ」と開発者を明かした。
「血縁者か。ならば、」
その後に続くであろう皮肉は、がん、という鈍い音にかき消された。
音の発生源を見ると、そこには――シャドーマンがいた。
「殿に、手を出してはいないだろうな」
そう言って、シャドーマンは赤いロボットを睨みつける。
赤いロボットも、シャドーマンを睨みつける。
「おい、お前、ちょっと待て!」
どうやらシャドーマンを追っていたらしい別のロボットが、シャドーマンに続いて入ってきた。
……なんか、蛇?に頭を齧られているようだ。……いや、そういうデザインなのか?
「スネーク、ちゃんと監視していろ」
「だってよォ、人の目盗んで、コイツいきなり消えたんだぜ?」
……ぱっと絵が浮かんだのが悲しい。
その場の空気が少し弛緩して、シャドーマンが私のほうへ駆け寄る。
鉄格子に指を絡めて、「大丈夫でござるか?」と聞いてくる。
私は少し呆れて、「シャドーマンがいれば、『大丈夫』なんでしょ」と返した。
それから、口論がヒートアップしてきた敵方のロボット二人(二機?二体?)を見遣る。
「メタルの馬鹿!オレだって暇じゃねっつの!」
「私だって、こんな小娘を相手にしている暇は無い」
……何と言うか、あちらの口喧嘩の弱い、蛇……ロボットとは仲良くなれそうな気がした。主に天敵が一緒という点で。