立っているのに疲れたので、ベッドに腰掛けてぼうっとする。と、顎に手を当てて何か考えていたスネークが顔を上げた。

「そういや、お前ら何しにこんな辺鄙なトコまで来たんだよ」
「……シャドー、説明」
「御意。……拙者たち、世界を救いに来た!」





堂々と胸を張って言うシャドーに、全く不可解、という顔をしているスネーク。
私の方へ顔を向け、シャドーを指さし、どういうことだ、と暗に聞いてくる。





私は首を振った。ついでに、肩にかかった髪を振り払う。





「知らないけど、何か……世界救うんだって」
「一応聞くけど、お前らって馬鹿なの?」
「違うし。私だって、いきなり誘拐されて、監禁されて……あーもう」

一つ一つ挙げていたら苛立ってきた。
こめかみを押さえる私をよそに、シャドーは続ける。

「拙者、殿と『世界』を救うよう、殿の祖母殿から指示を受けている。それが一体何を差すのかは、拙者自身もよく分かっていないのだが……」
「え?ワイリー倒したら終わり、とかじゃないの?」





「お前、博士を殺すのかよ?」





ぽつん、と呟いたスネークの声が、空気に浸透する。
スネークの目が、ギラギラと光っている。
私は慌てて取り繕った。





「ち、違う!私だって、どんなに悪者でも殺人とかしたくないから!ホントに!」
「そうでござる。拙者たちの目的は、あくまで世界を救う、ということ」
「もう、なんなのその抽象的な目的……」





私が頭を抱えていると、私たちの間抜けな会話に毒気を抜かれたらしいスネークが口を開く。





「何にも手がかりとかねェの?そりゃ無理だろ」
「……や、手がかりっぽいものは、ここに」





私は右手を上げた。
しかし、スネークは首を傾げる。私も、スネークの動作に首を傾げる。

それからスネークは、「ああ、」と気付いたように言った。





「その手の機械か。いつもロボットとか、バスターとか見てるから違和感無かったぜ」
「いや私人間だし。……これ、外れないんだよね」
「どれ」





スネークが、鉄格子から突き出した私の右腕を取る。
指先が硬くて、こそばゆい。





「パワースイッチはどこだ?」
「これでござるな」





他人に、勝手に自分の右腕を触られていると変な気分だ。
そう思いつつ、シャドーが先ほどと同じようにスイッチを押す。





『サンタナ・システム通常起動。――オペレーションを開始します』
「……普通の、戦闘システムっぽいな」
「って言われてもわかんないんだけど。私機械に詳しくないし」
「どうやって操作すンだよ」
「や、声で」
「あーナルホド」





これに、ミッション内容とか聞けばいいンじゃねェの?





そう呟いたスネークに、私とシャドーは停止した。
それから顔を見合わせる。





「「その手があったか!」」
「いやその手があったかじゃねェだろ。なんでそんな初歩的なとこからなんだよ」
「なんていうか、灯台下暗しで……えーと、……なんて言えばいいんだ」
「目標設定の詳細を頼む」

シャドーが横から口をはさむ。
そうやってやってれば馬鹿っぽくないのにな。





『了解しました。――目標設定は 世界の救済 です。まずはワードの具体的な把握から進めてください』
「「「……」」」





思わず三人で黙る。





「……何の解決にも、なってない気が」
「拙者もそう思うでござる……」
「……いや、いやいや」





スネークが、腕を組み考える。





「まずは、ってことは次があるな。要するに、何を世界の救済とみなすかを考えれば、次に進めるだろ」
「ええ……?でもそんなん人によって違うじゃん。もし、おばあちゃんが、世界を救うために一億円募金しなさーい、とか考えてたらどうするの」
「否。それは無いだろう」
「……何で言い切れんの?」
「祖母殿の生前に、何度も教えられたでござるよ。一つは殿と協力すること、もう一つはワイリー博士と接触すること、と」





再び閉口。





「……多分そのサンタナ・システム、人工頭脳が使ってあるだろ」
「……うん?」
「多分、極力感情を殺した人間みたいなモンだ。だから、人によって世界平和の定義が違う、っつーのもどうにか受け入れてもらえるっつーか」
「……要するに、私なりの考えでオーケー、と」
「多分な、多分」





そうスネークに言われ、私は少し気が重くなった。
なんだか、地球という球体を全て、背負ってしまったような。





「ま、オレも考えてやるよ。それにシャドーもいるしな。シャドーも手がかりの一つだしな」
「……あ、確かに」





私とスネークはシャドーを見つめる。
シャドーは自分を指さしたまま、何故か照れ始めた。





……私は、いつになったら帰れるのかな。