私は少し憂鬱になりながら、チェストの上のデジタル時計を手にとる。
もうすぐ日付変わっちゃう。
千種まだかなあ……。
……仕事、忙しいのかな。
でも、骸さんも何も、クリスマスにまで仕事入れなくたって……。
そう思って、私ってめんどいな、と呟いた。
何も無いテーブルに頬を付けると、情の無い冷たさが襲う。
なんとなくむなしくなるから、灯りもつけていない。
こつん、こつんと爪でテーブルを叩く。
千種とは長い付き合いだし、クリスマスだからといってものすごくはしゃぐわけではないけど、
それでも、いつもより料理は豪華なものにした。あれでいて千種、結構食べるから。
お腹は減っているけど、それより寂しさが勝ってしまう。
千種、と小さく呟いて顔を腕に埋める。
部屋は静かなままだった。
「……」
なんとなく立ち上がり、窓のカーテンに手をかける。
するととたんに、柔らかい光が部屋に陰影をつくった。
窓の近くは、冷気が直接肌になだれ込む。
つま先をすり合わせて、窓に手をつける。
外はとめどなく雪が降っていて、とても静かだ。
「きれい……」
ふわふわ漂う雪は羽みたいだった。
まさに聖夜にふさわしい。
「千種……まだかなあ……」
静かな世界は、私にちょっとした感動を与えたが、同時に物悲しさも感じさせた。
千種が一緒にいてくれたら、もっと素敵だったのに。
そう思って、窓ガラスに額をつける。少し額の熱が奪われる。
――ふと、静まる部屋の、私の耳元で、何かが聞こえた気がした。
「?……なんか、」金属音しなかった?
千種が帰ってきたのだろうか。
そう思ってふと後ろを振り返るが、そこには雪の丸い影を映す白い壁だけ。
やけに高い音だった。
「気のせいか……、!」
そう呟いてもう一度窓のほうに振り返ろうとしたとき、一瞬、壁に大きな影がちらついた。
あれは、……雲、じゃない、よね?
慌てて窓に振り返る。変わらぬ雪景色があった。
「なんだあれ……」
ぼんやりしていたが、何か、動物のように躍動感のある影だった。
もちろん窓の外をちゃんと見ても、それらしき雲はない。
カーテンをゆっくり閉じて、背中を預ける。
「疲れてるのかな……」
そう言って目をこする。
長い間待っていたし、そうかも。
……もう待ってても意味、無いかな。
そう思った瞬間、玄関の方で確かに、扉のきしむ音がした。
「!……ちくさ、」
慌てて廊下に走り出た瞬間、何か大きなものに抱きしめられる。
……千種だ。
一瞬ひんやりして、その後じわじわとぬくもりを感じる。
千種の体に顔をうずめたまま、私は千種の名前を呼ぶ。
「ちく、」
「ごめん、。急いで帰ってきたけど……ギリギリ」
小さく、仕事めんどい、と呟く千種に、私は駄目でしょ、と苦笑する。
少し鼓動が早い。走ってきたのかも。
体を離して千種をしっかり見ると、千種の髪や肩には雪が付いていた。
それを笑って、指先で溶かす。
目線を合わせて、小さく笑う。
「リビングいこう。ご飯あるよ」
「ああ、うん……」
廊下を歩いていくと、千種が突然「そういえば、プレゼントとか買ってない。……ごめん」と言ってきた。
私は振り返って、笑顔で答える。
「何いってんの、毎年のことじゃない。別に仕事が長引いたからって怒ってないよ」
私は現金だなあ、と思う。さっきまで仕事に不満があったくせに。
今は千種に会えて、もうなんでもいいや、って思ってる。
笑って千種の言葉を流そうとしたが、そこで何かが引っかかった。
……プレゼント?
私は思わず足を止める。
ぱちん、ぱちん、とパズルのピースのはまる音がする。
「どうしたの、」
「え、いや……」
もしかして、さっきの音と、シルエット――。
まさか、と思いつつも千種をまじまじと見てしまう。
それからじんわりと、胸に広がる幸福感に口をゆるめる。
「何?」
「……ううん、プレゼント、ちゃんともらってた。私の、一番欲しい」
「?」
何を?と首をかしげる千種に、私は思いっきり笑って千種に抱きつく。
「!」
千種は一瞬よろめきながらも、私をちゃんと支える。
それにますます嬉しくなって、私は千種の服に顔を埋めた。
「千種、大好き」
そういうと、千種は驚きながらも、私の背中に腕を回した。
細い腕が、私をゆるく拘束する。
……ああ、あったかいなあ。
千種のにおい、いっぱいする。
そう思いながら、私は少しだけ、抱きしめる力を強めた。
……プレゼント、ありがとう。(サンタさん、)
I LOVE YOU......